「あんた、何だか楽しそうじゃない。」
ベンチに座った男が目をあげるとまだあどけなさが残る少年と目が合った。
「あんた、大事なパーティだろう?ここにいていいのか?」
少年は勝手にベンチの隣に座る。
着ている服はオーダーのスーツで一見しただけで良い所の坊ちゃんだ。
「ああ。少し疲れたからね・・。」
男は赤みがかったブラウンの髪をかきあげながら言った。
少年はクスクス笑って言った。
「さっきスピーチしていた時も嫌そうだったし、楽しくなさそうだね。お兄さん。」
「ふん。お子ちゃまにそんなことがわかるのか?」
「お子ちゃま?こう見えても15歳だけど・・・。」
「うそだろ?」男は目を見開いて言った。
少年は笑って言った。
「あははっ。あんた、今日見たなかで一番人らしい表情している。」
男は、ふくれたように言った。
「あんたじゃない。キースと呼べ。」
「じゃあ、俺は慎吾。改めてよろしく。キース。」
慎吾は手を差し伸べながら言った。
「ふんっ。」キースはその手をそう言って握った。
2人は、そこのベンチで少し会話を楽しんでから別れた。
「よっ!!」
キースは、その言葉に振り返った。
そこには、あのパーティの夜に知り合った少年がいた。
「相変わらず、楽しくなさそうな顔をしているなあ。」
キースは眉間に皺を寄せて答えた。
「たのしいわけないだろう。朝から手術7件だぜ。」
「手術?あんた医者だったの?」慎吾は驚いたように言った。
「ああ。」
「あんた、何歳?」
「18歳。」
「うわぁ・・見た目ふけてる・・・。」
「うるさい。」
「じゃあ、医者なりたてなんだ。大変だな。」
キースは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「これでも、キャリア10年だ。」
「うそだ〜〜〜あ。やっぱり年齢詐称だね。」
「うそじゃない。それよりも何だ?」
「あ〜〜〜俺。今日日本に帰るの。今回短期の語学留学だったから。」
「そうか。」
「なあ・・・キース?」
「なんだ?」
「家事上手な男の子。夏だけ雇う気がない?」
「なんだ・・・それ?」
「だから、高校入ったら夏休みだけホームステイしていいか?」
「なんで、俺なんだ?」
「だって。キース楽しくなさそうだもん。」
「だから・・なんで?」
「楽しいこといっぱいあるんだから。俺教えてやるよ。」
慎吾はにこにこ微笑みながら言った。
「ふっ・・・。」キースが急に笑い出す。
「で、ど〜〜よ。」
「ああ、いいだろう。しかし、私は忙しい人間だぞ。
住居は提供しよう。ちなみに掃除はメイドサービスを利用しているから
必要ない。」
「じゃあ。俺ごはん作るよ。」
「まぁ。日程が決まったら教えろよ。」
キースはポケットから自分の名刺を取り出し慎吾に渡した。
「OK!!」慎吾は嬉しそうに受け取るとポケットに名刺を入れ
近くに置いてあったスーツケースを手に取った。
「おまえ?これから空港に行くのか?」
「ああ。そうだよ。俺はできることは全部自分でする主義なんだ。」
キースはポケットからキーを取り出して言った。
「送ってやる。」
「やったぁ。ラッキー。」
慎吾はにっこりと微笑む。
キースは愛車にエンジンをかけ、飛行場に向った。
飛行場で車を降りる慎吾にキースは一言言った。
「もし、来るんだったら、TOEFLのスコア600は取って来い。」
これは、結構難易度が高い。でもキースには慎吾ならできるだろうという確信があった。
「わかったよ。」慎吾もにっこり微笑みながら言って車を降りた。
キースは、その後ろ姿を見送ると車にエンジンをかけた。
しばらく走らせると病院から呼び出しの電話が鳴る。
その時は、もうすでにキースの頭には仕事のことしかなかった。
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