君と僕らの三重奏

       第9章 血の繋がり −8−

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それから1週間ほどが過ぎ、ジーンが帰国する前日になった。


ちょうど皆が休みでドライブにいくことにして

西條がハンドルを握っている。

助手席には和道がいて、後部座席に樹珠愛とジーンは並んで座っていた。


少し気持ちが落ち着いてきた樹珠愛にドライブを提案したのは

和道と西條で、ジーンが日本にいるうちに樹珠愛の小さな時や

両親のことを聞いた方がよいと説得した。


ちょうど、東条グループのホテルの庭を修吾が監修して

美しいイングリッシュガーデンを作ったのでそこに行くことになった。


いつもは大人っぽくしている樹珠愛と和道が

すっかりくつろいで年相応に笑ったり話したりしているのを見て、

ジーンも緊張をとき、笑顔を見せた。


特に、和道がジーンを引っ張りまわしてカフェめぐりをした話は

普段あまり笑わない西條も声を出して笑っていた。


途中、数回休憩をいれ、ローズガーデンに着いた頃には

日も高くなっていた。



車が駐車場に着くと、「樹珠愛ちゃん!!」という声が聞こえ、

隆道と修吾がそばに来てハグをした。


「隆道パパ。修吾パパ。お仕事は?」

驚いて聞く樹珠愛に隆道はにやりと微笑んで言った。


「昨日、今日の分も前倒しで仕事したからオフよ。

 修吾もちょうど休みだったから、ここに来たのよ。」

日本語はわからないけれど、思いっきりビジネスの時と違う隆道の様子に

ジーンは驚いて目を見張っていた。


和道は、そんなジーンを見てクツクツ笑いながら言った。

「息子の俺ですらまだあの人を掴めていないんだ。」


隆道と修吾と一緒にお昼を食べた後、樹珠愛はジーンと庭園を散歩することにした。


ジーンと樹珠愛は、しばらく黙って美しい庭園を眺めて

歩いていたが、ジーンが樹珠愛に微笑みながら話し始めた。

「ここのお庭も美しいですが、イギリスにあるマクスウェル家の庭園も美しいのですよ。」


「えっ。もう荒れているのでは?」

「いえ。庭師の者が休日に庭園の世話をしてくれているので、荒れておりませんよ。」


「まあ、でも、庭師の方には?」

「ええ。給料は払っておりませんが、元々勤めていたメイドなども

 休日に邸に来て掃除をしてくれたりする者もおります。

 皆、あの邸が好きなのです。」


「そうなのですか?」

「ええ。古いですが、とても美しい邸です。

 樹珠愛様がイギリスにいらしたら是非案内させてください。

 ディーン様がミドリ様の為にお造りになった花壇も美しいですよ。」

「お父様がお母様に・・・?」


「ええ。ミドリ様がまだイギリスに慣れていらっしゃらない時、

 ディーン様が日本から花の苗を取り寄せられて作った花壇です。

 ディーン様は、晩年までその花壇を誰にも触れさせず、

 自分で世話をなさっておいででした。」

「お父様は、お母様を忘れないでいらしたの?」


「もちろん、忘れるものですか。それに、貴女のことも。」

ジーンが力強く言った。


「私?」

「ええ。貴女の部屋も邸には手付かず残っております。

 それに、5年ほど前から旦那様はあの部屋の家具を

 少しずつ変えていらっしゃいました。」


「まさか、私が生きているのを知って?」

樹珠愛はジーンを見あげながら言った。

「ええ。そうなのでしょうね。」



樹珠愛は耐え切れなくてポロポロ涙を零した。


「もう少し先に会えていたら・・・。お父様は幸せでいらしたのかしら?」

ジーンは樹珠愛にハンカチを差し出しながら言った。


「ジュリア様、ミドリ様もディーン様も貴女の中におりますよ。」

「私の中に?」


「ええ。貴女はミドリ様に生き写しだ。

 そして、その目や仕草がディーン様に似ていらっしゃる。

 あなたの中に2人は生きていらっしゃるのですよ。」

ジーンはそう言って微笑んだ。


「あの、今回は無理でしたが、あちらに行った時には

 お父様とお母様のこともっと聞きたいです。」

樹珠愛が涙を拭きながらそう言うとジーンは頷いて言った。


「もちろん、お話致します。その代わりに、貴女のことを

 お話下さいますか?いままで、どんな風に過ごされていたか

 私は貴女の口からお聞きしたいです。」

樹珠愛は驚いてジーンをみあげた。


そして、ジーンの眼差しが真摯なものだったのでコクコクと頷きながら

再び涙を拭いた。




 
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