君と僕らの三重奏

       第9章 血の繋がり −7−

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「紹介致します。こちらが今回の手術の医師、

 楠瀬樹珠愛です。」

フィリップが樹珠愛を横の椅子に座らせるとそう紹介した。

「ジュ・・・リア・・・様・・・。」

ジーンは呆然としたように樹珠愛の顔を見つめて、

「ああ・・神様・・ありがとうございます。ありがとうございます。」

と言いながら声をつまらせた。

「初めまして。では、ないのですね。」

樹珠愛がそう言うと、ジーンは頷いて言った。

「貴女が産まれた時から存じております。

 私は、マクスウェル家の執事のアランの息子です。」

「アラン・・・。」




「ジュリアお嬢様。熱いエッグノッグはいかがですか?」

樹珠愛の眼にきちんとした身なりの優しげな男がおぼろげながら浮かぶ。




「アラン・ロイヤル」樹珠愛はそう呟く。

「父のことを覚えておいでですか?

 そうアラン・ロイヤルとは、父が得意だったミルクティの名です。」

「いつもは、なかなか飲ませてくれなかったの。

 でも、ある日飲ませてくれて、嬉しかったと思うの。」


樹珠愛が呟くように言うと、フィリップは樹珠愛の肩を抱き寄せて

「樹珠愛、無理に思い出そうとするんじゃない。」と言った。

「うん。大丈夫。何だかあたたかい気持ちになったから。

 さあ、今回の手術のこと話しましょうか?」



樹珠愛はフィリップとジーンににっこり微笑みながらそう言った。

手術の話を終えた樹珠愛にジーンは鞄から白い封筒を出すと言った。

「貴女に負担ばかりかけて申し訳ありません。

 そして、この手紙はエドワード・マクスウェルが

 貴女にあてて書いた手紙です。

 貴女が読みたくなければ捨てて戴いて構いません。

 ただ、エドワード様も私どもも事情が全然掴めずに

 貴女を必要以上に傷つけてしまいました。

 本当に申し訳ございません。

 そして、貴女は覚えていらっしゃらないと思いますが、

 私は、亡き奥様と貴女を守る約束を致しました。

 しかし、その約束を果たせずにいたことをお許しください。」


樹珠愛は、その手紙を受け取って「ありがとう。」と答えた。


タイミングを計ったように樹珠愛の携帯が鳴り、秘書の橘が迎えにきたことを告げた。

「フィリップ、ジーンさんに私のことを話してくれない?」

樹珠愛はフィリップにそう頼み、ジーンに挨拶すると部屋を出た。


フィリップは、改めて椅子に座りなおして言った。

「さあ、長い話をしようか。」






その夜、マンションのウッドデッキに出て、

樹珠愛はジーンから貰った手紙を開けてみた。



エドワード・マクスウェル。

樹珠愛の異母弟。

今日、本社に行った樹珠愛に西條が報告書を差し出した。


それは、彼とマクスウェル社の報告書。

エドワードは、母親に愛されて育った子供ではないらしい。


それは、ディーン・マクスウェルが死んだ今、執事であった、

ハリスフォード家に住んでいること。

彼の医療費をハリスフォード兄弟が支払っている事実が書かれていた。


「そんなことなら・・・。」

そんなことなら、3年前に自ら名乗って、イギリスに行けば良かった。

きっと何かが変わったかもしれない。


でも、もう時間を戻すことはできない。





『親愛なるお姉様。

 お父様が亡くなった時、僕はひとりっきりでした。

 心の中がぽっかり穴が開いたような感じがして

 すごく寂しかったです。


 でも、お姉様が生きていると知ったとき、

 ひょっとしたらお姉様は僕以上に

 寂しい思いをなさっていたのかも知れないと思いました。


 お父様は、よくミドリ様とお姉様の話をしました。

 ミドリ様は、とても優しく素晴らしい女性だったと

 お父様は話しておりました。


 天国でお父様はミドリ様と一緒に過ごされているのかと

 思うと、僕は少しだけ安心致しました。


 そして、お姉様が生きていたと言うことは、

 お父様が僕に残してくれた

 最後のプレゼントのような気が致しました。


 僕の病気は、一番初めに僕を診てくれたお医者様以外は

 治るのが大変だと言います。


 でも、僕を初めに診てくれたお医者様は絶対治る。と言ってくれました。

 だから、僕そのお医者様を信じています。


 そのお医者様は、治ったときは絶対良いことがある。って

 僕の頭を撫でてくれたんだ。


 偶然だと思うけれど、僕それがお姉様のことかなって思うんだ。

 お姉様、だから僕が元気になったら会いに来てください。

 僕はそれを励みに手術を頑張ろうと思います。


                      エドワード・マクスウェル』




樹珠愛の頬を涙が濡らした。


「樹珠愛。」

「樹珠愛様。」

振り返ると心配そうな顔をした和道と西條がいた。


「1人で泣くなよ。」

和道は、そう言いながら樹珠愛を抱き寄せ、西條は優しく樹珠愛の頭を撫でた。




 
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