君と僕らの三重奏

       第9章 血の繋がり −6−

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マンションに戻ると、和道もちょうど帰ったところで

着替えをしていた。

「樹珠愛、風呂入って、寝室に来いよ。

 今日も3人で寝ようぜ。」

和道がそう言ったので、樹珠愛は風呂に入り、

栞セレクトの可愛いパジャマを着て

寝室に行った。


和道と西條の寝室はとても広く、

大きなベッドの他にゆったりくつろげるソファがあり

和道と西條がパジャマ姿でグラスを片手に話をしていた。



和道は樹珠愛の姿を見るとにっこり微笑んで

「樹珠愛、こっちに来いよ。」と言った。

西條は、立ちあがり、キッチンでミルクを温め、砂糖とブランデーを

ちょっぴり垂らして樹珠愛の前に置いた。

「龍哉さん、ありがとう。」



樹珠愛は、両手でマグカップを持ってミルクを一口飲むと、

口を開いた。

「手術、執刀することにしたの。

 急ぐものではないから、夏休みになったら向こうに行こうと思う。」



「樹珠愛、大丈夫かよ?」

和道が心配そうに言った。

「フィリップから、医師として話は聞いたわ。

 オペも今までやった中で考えるとさほど難しいとは思わなかった。

 でも患者が弟だと考えたら、正直自信がないの。

 弟に何の罪が無いのはわかっているけれど、

 私の母は・・・・。」

樹珠愛はそう言うと顔を手で覆った。



「樹珠愛様・・・じゃあ、なぜ、引き受けられたのですか?」

西條の問いに樹珠愛は顔をあげて答えた。

「今のままならだめだと思ったの。

 私は、キースとありとあらゆる毒についての研究をしている。

 私なら真実を知ることができる。

 でも、とてもこわい。」



「樹珠愛・・・。俺も一緒にイギリスに行く。」

和道が樹珠愛の肩を抱き寄せながら言った。


「えっ?だって・・?」

樹珠愛はそう言うと、西條が樹珠愛の頭を撫でながら言った。


「もちろん、私も同行いたしますよ。

 家族が一大事な時は、皆一緒に行動するものですよ。」

樹珠愛は驚いた様子で2人を見つめ涙をポロポロと零しながら言った。

「ありがとう・・・。」


「ほら、あんまり泣くと明日目が腫れるぞ。」

和道はわざと明るい調子でそう言うと樹珠愛は何度も

コクコクと頷いた。


和道と西條は、樹珠愛をベッドに連れて行って

樹珠愛を寝かせ、自分たちもベッドに入る。


西條が優しく樹珠愛を抱き寄せて

和道が樹珠愛の長い黒い髪を優しく撫でた。

「こうして、いつでも傍にいますから、

 樹珠愛様、お眠りなさい。」

西條がそう言いながらポンポン背中を叩く。


樹珠愛は温かな体温に包まれていつの間にか眠りについた。

和道が涙で濡れた頬を指で優しく拭ってやった。





数日後、ジーンはフィリップから連絡を受けて東条病院に向った。

フィリップは応接室にジーンを案内すると

口火を切った。


「日本から、私ともう一人の医師が行く予定です。

 それ以外は、現地の職員を手配する予定です。」

「じゃあ、先生が手術して下さるのですか?」

ジーンが聞くとフィリップが首を振って言った。


「私が中心というわけではないです。

 もう1人の医師が中心になります。」

「なんででしょうか?先生も優秀だと紹介されたのですが・・・。」


「もう1人の医師は私より優秀ですから。

 彼女は勤務医ではないので、一年に行う手術の数は少ないですが

 天才医師です。

 正直、患者のカルテを見て私は難しい手術だと認識したのですが、

 彼女にカルテを見せましたら、絶対成功すると言い切りました。」


「言い切った?それに女医なのですか?」ジーンは信じられないように言った。


いままで、手術が成功すると言い切った医師はいない。


「ええ。そうです。あなたは運が良い。

 しかし、あなた自身彼女にどれだけ沢山の重荷を背負わせたか

 自覚はしてください。

 私は、医師としてあなたの依頼を受けますが、

 個人としては受けたくない仕事でした。」

「なんででしょう?」

ジーンは不思議そうに言った。



フィリップはそれに答えないで言った。

「そろそろ、彼女が来る頃ですね。」

その時、ドアが開いた。



「フィリップ?急の呼び出しは何なの?」

その声にジーンは振り向いて目を見張って言った。

「奥様・・・・。」 





 
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