君と僕らの三重奏

       第9章 血の繋がり −4−

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このところ、ジーンはいらいらしていた。

東条病院のフィリップからは、

「手術の依頼は受けたいがスタッフの調整等があるから

 具体的な話は検討してからになる。」

と言われている。


樹珠愛の動向も掴めないので、ホテルで連絡を待つ日々を送っている。


「ジーン。お姉さまに会えた?お姉さまってどんな方?」

今朝、ホテルにエドワードから電話が掛かってきてそう言われた。

「エド様、樹珠愛様にはまだ会えておりません。

 申し訳ありません。」

ジーンがそう言うと、エドワードはがっかりした声をしながらも

「しかたがないよね。日本も広いもの。ジーンもそう気にしないでね。」と言った。



何度か、東条コーポレーションにも電話を掛けたが

「まだ、樹珠愛様が決断を下しておりませんので・・。

 もう少しお待ちいただけますか?」と西條に言われた。

「くそっ。」ジーンは天井に向ってそう呟いた。



午後になり、フロントから連絡が来てロビーに下りていくと

そこには、背の高い男西條と柔らかい雰囲気で若者風の男がいた。

「こんにちは。こちらは、東条和道。社長のご子息です。」

西條がそう言うと、和道が立ちあがって手を差し出した。


「初めまして。私の事はカズと呼んでください。」

和道は見事なクィーンズイングリッシュで話した。

ジーンがその見事な発音に驚きながら握手すると

「私の父は翠のことを妹のように思っていたので

 その影響で習ったのですよ。」

和道はそう言いながら柔らかく微笑む。


しかし、和道には西條同様、隙というものがない。

ジーンは背筋を伸ばして、

「申し遅れました。ジーン・ハリスフォードと申します。」

と言って挨拶をした。


西條は、少しそこで世間話をすると仕事があると席を立った。

西條が出て行くと、和道はにっこりと微笑みながら言った。

「東京には素敵なカフェが沢山ありますよ。

 一緒にどうですか?」




「少し・・歩きすぎたかな?」

夕方、和道は疲れた顔で紅茶を飲んでいるジーンを見ながら言った。

「はあ・・・。」

ジーンは疲れたように溜息をついた。


「一流レストラン経営のカフェ、

 フレンチ風カフェ 猫カフェ、メイドカフェ、執事カフェ、鉄道カフェ、

 コーヒー専門店のカフェ、紅茶専門店のカフェ 2件

 チョコレートショップ経営ののカフェ。」

「ええ。とにかくいろいろな種類のカフェがあるとわかりました。

 しかし、ここの紅茶が一番美味しい。」

ジーンはそう言いながら紅茶を優雅に飲む。


「俺のところは、カフェでないんだけどな。

 悪いが、これから、1時間くらいスタッフミーティングなんだ。

 それまでいるだろう?」

「ああ。 栞さん、ありがとう。」和道が小声でそう言うと栞は部屋を出て行った。



「ここの部屋は、樹珠愛が育った場所のインテリアがモチーフだそうだ。」

和道はそう切り出した。

今日、いろいろなカフェを引っ張り回されたが樹珠愛の話を和道がするのは初めてだ。

「ジュリア様の?」ジーンは部屋の中を見回してそう言った。


和道は頷きながら続けた。

「樹珠愛は、優しいから最後には君達の望みを叶えると思う。

 しかし、今彼女は苦しんでいる。

 彼女の弟が彼女に会いたいと言っているそうだけど、

 彼女は弟に同じくらい会いたいのかと言うと

 そういう感情は少ないと思う。」


「なんで、唯1人の兄弟なのに?」

「君は、唯1人の兄弟でも自分と母親を殺した女の子供と会いたいと思うのかね?」

和道は冷たい口調で言った。


「まさか・・あの女が・・・?いや・・・。」

あの女ならありえる・・。その言葉をジーンは飲み込んだ。


「そう。ベスとエリックが翠と樹珠愛を殺した。

 いや、実行犯はエリック。ベスの指示で2人を襲ったんだ。」

ジーンは、驚きで目を見開いた。


エリザベス・マクスウェルは、今、ロンドンのマンションで同棲している。

彼の名前はエリック。

エリザベスは、ディーンが亡くなった後に知り会ったと説明していた。



同じ名前・・・ジーンは思わず和道の手を握って言った。

「何で、その名前を知っているんです?」

和道は静かに言った。


「樹珠愛は時々魘されるんだ。

 その事件のあった時に戻った樹珠愛は

 血だらけになった母親を今も見続けている。

 そして、決まって言うんだ。

 エリックが撃った。ベスが頼んだって・・・。」



ジーンはがっくりと肩を落とした。

エリザベス・マクスウェルは限りなくグレーだと思っていた。

まさか、翠や樹珠愛の事件にまで関与しているとは考えていなった。

あの事件はもう終わったものだと思っていたのだ。


そのような展開になるとは、予想すらしていなかった。




 
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