君と僕らの三重奏

       第9章 血の繋がり −3−

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その夜、東条の本宅に東条義道、隆道、和道、

西條、フィリップが集まった。

修吾は、樹珠愛を迎えに行く為に母の所へ行っている。

修吾には出掛ける前に隆道が電話でジーンのことを説明している。

なので、修吾は自分の母と樹珠愛と夕食を取ってから本宅に

戻ることになっている。



「ロンドンのあの病院は、元々キースがジュリアの治療をする為に

 建てた病院なのです。だから私立で患者も急病人で無い限りは

 紹介がなければ診ないシステムになっています。

 さっき、病院に問い合わせをしましたが、エドワード・マクスウェルの

 紹介者は間違いなく、キース・バートンでした。

 しかも、初診はキース自らがしておりました。

 それに、キースの診断は信じられないものだったのです。」

フィリップが口を開いた。



「守秘義務があるのはわかっておるが、樹珠愛の為だ。

 何が書いてたのじゃ?」

義道が聞くとフィリップは口を開いた。

「患者の体調の原因は遺伝性や生まれつきのものではないそうです。

 薬物によるものでその薬物は成長の妨げになり

 それが原因で体の成長に支障が出たそうです。

 だから、解毒の治療が終わり、その厄介な箇所を手術すると

 完治すると見込まれます。しかし、成長しなければならないときにできなかったという

 弊害は出るものと思われます。


 キースは、ジュリアも今はそうですが、

 対生物兵器のワクチン開発も手掛けていたのでありとあらゆる

 薬物や毒草に詳しいのです。正直キースの見立てでなければ信じられないカルテでした。


 エドワードに使われていた毒草はアフリカの奥地で自生しているもので

 段々人間としての機能を衰えさせるものでした。

 正直、私もそのカルテを見て初めて知った毒草でしたので

 普通の医師には見分けがつかないと思われます。」



「何で、自分の子まで手を掛けていたの?その女、人間じゃないわ。鬼だわ。」

隆道は強い調子で言った。


フィリップが頷きながら再び切り出した。

「実は、ジーンからもう1つ仕事を頼まれたのです。」

「それは、何ですか?」西條が聞いた。

「ディーン・マクスウエルとアラン・ハリスフォードの検死。

 幸い2人は土葬だそうです。

 これは、ディーンがジーンに手紙で託した依頼だと言う事です。

 ちなみに2人とも屋敷で急に亡くなったそうです。

 状況から推察すると何らかの毒草などが使われていたと思いますが、

 ジュリアでないと見極めるこのができないと思います。

 正直、私も自信がありません。」



「ますます、樹珠愛には厳しい話だよなあ。

 自分の父親との再会が検死だなんて・・・。」

和道がそう漏らした。


「真実を晒すことが必要だとわかっておるが、酷いことだな。」

義道が言った。


「あの子が普通の高校生ならどんなに良いか・・・。

 エドワードの手術も、私と他の医師が組んでの執刀なら成功率が半分以下です。

 ジュリアと組むことでその成功率がぐんとあがるのです。
 
 私の力が及ばなくて申し訳ないです。」

フィリップがそう言って頭を下げた。


誰も、そんなフィリップを責めることはできなかった。




それから少しして、修吾が樹珠愛と一緒に本宅に戻ってきた。

皆がリビングに揃っているのを見た樹珠愛は不思議そうに

「どうしたの?」と尋ねた。



「樹珠愛、ここにおいで。」

隆道が真顔で樹珠愛を呼び、筋道だてて話をする。

樹珠愛は、冷静にその話を聞いていた。

隆道は話をし終えると、樹珠愛の肩に手をやって言った。

「樹珠愛、急なことで整理つかないと思うけど、

 これだけは言わせて。

 樹珠愛は、もう1人じゃない。

 いつでも傍に皆がいるからね。」

樹珠愛はにっこり微笑んで頷いた。




その夜、3人でマンションに戻り

樹珠愛を挟んで3人で寝た和道と西條は

夜中に樹珠愛の大声で目を覚ました。



『おかあさま・・・まっか・・・』

「樹珠愛。」

西條は樹珠愛をぎゅっと抱き寄せ、

『大丈夫・・・大丈夫・・・。』

和道は英語でそう言って頭を撫でる。



『キース・・・シン・・・ゴ 怖い夢・・・・。』

樹珠愛は虚ろな目でそう言う。

寝ぼけて、幼児帰りしているようだ。


『ああ、大丈夫。もう怖くない。』

『ゆっくりおやすみなさい。』

和道と西條は英語でそう答えると樹珠愛はスースー寝息をたてた。



「辛いな・・・。」

和道がぽつりと言ってナイトテーブルからタオルを出し

汗と涙で濡れた樹珠愛の顔を拭いてやった。


「そうですね。」西條は、

樹珠愛の背を子供をあやすようにポンポン優しく叩いた。





 
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