君と僕らの三重奏

       第8章 家族の温もり −4−

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和道は、樹珠愛の手をひいて外に出ると

廊下を抜けて1つの部屋に入って行った。


「あれ?こんなところにエレベーターがある。」

「ああ。これが特別なんだ。」

「下の階のここの部分は機械室になっているので

 このエレベーターの存在に気づく者はいないのですよ。」

西條が樹珠愛の後ろからそう説明する。


エレベーターに乗ると、地下1階、2階、3階という

ボタンがついていた。


和道が地下2階のボタンを押すと静かにエレベーターは動き出した。

「地下1階は、隠しドアから駐車場に抜けれるのですよ。」

西條の言葉に頷いているとエレベーターは止まった。



扉が開くと、そこは明るいテラスだった。

「エレベーターがこの階に向かうと自動的に電気がつくシステムなんだ。」

そう言いながら、和道が扉を開けると樹珠愛が驚いたように中を見た。

「こ・・・ここは・・・。」

そこは、キースと慎と過ごしたパリのアパートメントの内装にそっくりな部屋だったのだ。

唯一違うのは部屋の中に大きなベッドがあることだろうか?



「樹珠愛様の写真で一番背景が写っていたのがそのアパートだったようで、

 修吾様がその写真を素にこの部屋を作ったのですよ。」

「修吾パパが?」

「ああ、あの部屋は窓が多いから、嵐になるときはこの部屋で眠るとよいからな。

 一緒に寝ような。」


和道が樹珠愛の頭をくしゃっと撫でて言った。

「もちろん、3人一緒ですよ。」

西條もそう言いながら樹珠愛の肩を抱いた。



樹珠愛の肩が小刻みにプルプル震える。

「どうした?樹珠愛?」

「樹珠愛様?」

和道と西條が心配そうに樹珠愛の顔を覗き込んだ。



「どうしよう。こんなに幸せで・・・私・・・。」

樹珠愛の目からポロポロ涙が零れた。



「さあ、樹珠愛が見なきゃいけない所はまだまだあるぞ。」

和道が元気付けるようにそう言い、西條は優しく樹珠愛を抱き寄せて

幼い子供にするみたいに背中をポンポン叩いた。




落ち着いた樹珠愛を和道は同じフロアの別の部屋に案内する。

この地下のプライベートな空間はその部屋とバスルーム、キッチンと玄関で

玄関に置いてあったサンダルを履いて玄関を抜けると

オフィスビルのホールという雰囲気のエレベーターホールが目の前にあった。



エレベーターを挟んでドアが2つ見える。

和道が、手前のドアを押して開けると、

中にいた2人の男がこちらを向いた。


「樹珠愛さん、お誕生日おめでとうございます。」


そう微笑んで言ったのは川島真実、樹珠愛が実質経営をしているソフト会社の

チーフプログラマーだ。

ある事件のせいで対人恐怖症になっていたが

仕事は真面目で正確なので、入社して数週間でチーフプログラマーになった。

今は、ソフトのメンテナンスの他に新たなソフトの開発まで手掛けている。


「ほいっ。おめでとう。これは、俺達2人から。」

そう言いながら、セクシーな感じの男が

ピンクローズの花束を樹珠愛に差し出す。


「ありがとう。ユウキ。」

岡島祐樹、樹珠愛の代わりに会社の表の窓口になってくれている美丈夫の男だ。

元々、人付き合いがあまり得意ではないが、

何しろ、樹珠愛がようやく高校生になったばかりなので

その役をこなしてくれている。

前の会社では、無精髭をはやしオタクのような格好をしていたが、

樹珠愛の会社は、本当に能力主義で人を雇っているので

あまり他の目を気にすることもなくなったようだ。


「すごい、可愛い薔薇。ありがとう。ユウキ。マサミ。」

樹珠愛は嬉しそうに顔を綻ばせると、岡島と川島の頬にお礼のキスをした。

岡島も川島も樹珠愛のことを妹のように思っているらしい。



「ところで、なんで、2人がここにいるの?」

樹珠愛が言うと和道が笑いながら言った。

「本社にある今のテナントスペースではソフトの開発まではできないだろう?

 だから、樹珠愛自身もマンションでソフト開発していただろう。

 ここに、コンピュータールームを作ろうと思った時、ちょうどこの2人も

 このマンションに住むわけだから、ここをそのスペースにすると良いと思ったんだ。」

「本当にここにあるマシンを使わせてもらえるなんて、夢のようです。」

川島がそう言うと西條が首を振って言った。


「それに、この2人がそばにいると、寝食を忘れてソフト開発をするなんて機会が

 無くなるので、私達にとっても良かったのですよ。」

樹珠愛が「えーーーっ。」と言いながらちょっと頬を膨らますと

皆がその顔を見て笑った。




 
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