君と僕らの三重奏

       第8章 家族の温もり −1−

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「そろそろ、高等部はバレーボール大会だろ?」

和道が朝食を食べながら言った。


「って言うかその前に中間テストあるんだよね。」

「楽勝だろ?」和道がにやっと笑いながら言った。

「まあね・・・。バレーボール大会って何?」

「ああ。クラス対抗で大会があるんだ。中間テストが終わったら

 クラスで練習とかするはずだよ。もっとも、俺は1年の後期から

 生徒会に入っていたから楽しめたのは1年の時だけだったけどな。」


「なんか、楽しそう!!」

「そうだな。」


「ところで・・和道?バレーボールって何?」

「はあ?」和道は驚いたように樹珠愛を見つめた。


「樹珠愛様、バレーボールをしたことないのですか?」

西條が言うと樹珠愛はコクリと頷いて言った。

「うーーん。ほら、団体競技ってあんまりしたことないんだよねぇ。」

「大丈夫だよ。樹珠愛なら。」

和道はそう言いながら樹珠愛の肩を叩いた。




「全然・・大丈夫じゃない。」樹珠愛はちょっと泣きべそをかいて

白いボールを眺めていた。


「あんた、運動神経良いのになんでこれだめなんだろうね。」

紅子が小さな溜息をつきながら言った。


周りは初等部の頃からバレーをやっているからか

かなり上手なのだが樹珠愛はうまくタイミングが取れない。

「ふふふっ。でも良かった。」


近くにいた植草というクラスメートが樹珠愛に話しかけてきた。

「えっ?何?」

「だって、楠瀬さん何でも完璧だから、苦手なことがあると思うと

 何だかほっとするよ。」

「あ〜、確かにそうだな。テスト勉強すらしてないものな。」

紅子が微笑みながら言った。


「う〜〜〜。でも悔しい。」

「はははっ。楠瀬さん、もし良かったら一緒に練習しない?」

「うん。するする。紅子もつきあって。」

「しょうがないなあ。つきあってやるよ。」

紅子もそう言ってくれたのでそれから、

放課後にバレーボールの練習をすることになった。


するとなぜか同じクラスの男子も何人か

参加するようになった。


・・・これはまずいな・・・


紅子は男子の視線の先に懸命に練習している樹珠愛がいるのを見て

眉をひそめた。




試験が終わりいよいよバレーボール大会の本番になった。

その日の朝は西條がお弁当を作り樹珠愛に持たせてくれた。

練習したおかげか、自分の方に飛んできたボールを落とすことも

なくて樹珠愛はほっとした。


クラス対抗のバレーは、勝ち抜き戦で選手交代が自由なので

樹珠愛の出番は少しだけだったが紅子はオール出場している。


紅子は応援席に樹珠愛の姿が無いのであわてて周りを見渡した。

足に包帯を巻いた男子の声が耳に入る。


「保健委員の楠瀬さん、可愛いし手際が良いからいいよね。」

紅子は心の中で舌打ちをしながら救護室に向かうと

樹珠愛が保険医の手伝いをしているのが見えた。


なぜか、男子の姿が妙に多い。

「樹珠愛、出番だぞ。」紅子が呼ぶと保険医が気がついて言った。

「楠瀬さん、助かった。ありがとう。」

「いえ。どういたしまして。」樹珠愛はそう言いながら立ちあがった。





その日、樹珠愛がマンションに戻ると

西條と和道がもう帰ってきていた。


「樹珠愛、バレーボールはどうだったかい?」

「残念ながら、3位。でも私はボール落とさなくてすんで良かったわ。」

「それは、良かったですね。」


西條がそう言いながらテーブルにお味噌汁を運んできた。


「うん。ああ、久しぶりにすごくおなかすいたかも。」

「たくさん、食べろ。」

「和道ほどは食べれないかも・・・。」


そう言って話をする樹珠愛は年相応の高校生に見える。

いつも大人びている樹珠愛が楽しそうに話をするのを聞いて

西條も和道も何だか嬉しい気分になるのだった。






 
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