君と僕らの三重奏

       第7章 君が隠してきたもの −5−

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樹珠愛の言葉に皆が声を出せなかった。

この小さな樹珠愛がたった一人で孤独と向き合っていたと

考えるだけで、切なくなってきた。

フィルがかすれた声で言った。

「ジュリア・・・君は・・何て・・・。

 影でそんなに悩みながらも、オペも難なくこなして。

 確かに君の術式はキースと同じようになっていた。

 今はキースがメスを握っているのかさえ思ってしまうほどだ。

 気づいてあげなくて・・すまない・・・

 今考えると、そうだ。キースがいた時は仕事が終わるとすぐに

 家に戻っていたのに、ここ数年は少し滞在していたよね・・。

 ああ・・ジュリア・・・すまない・・・。」

フィリップの頬にも涙がつたっていた。

皆が泣いていた。


和道が優しく言った。

「樹珠愛、泣いちゃえよ。泣いて悲しみを全部出しちゃえ。」

そう言いながら樹珠愛の頭を撫でた。

和道自身、人の中で孤独を感じて過ごした。

それを変えたのが西條との出会いだった。

西條は、外面と違ってとても暖かい人だ。

だから、和道の心を少しずつ溶かしてくれた。

基本、和道には守られる安心感の中にいる。

それは公私共に絶対の信頼を寄せる西條が傍に寄り添うようにいてくれ

常に和道を支えてくれるからだ。

和道は樹珠愛を抱きしめながら奇妙な感情に捉われていた。

それは、守りたいという感情。


西條も悲痛な顔で樹珠愛の手を握って撫でていた。

今まで、西條の生活は和道中心であり、和道が隆道以上の経営者になるのが

西條自身の夢でもあった。

2人の生活に樹珠愛が入ってくるのは、正直西條も迷惑に感じていたが

樹珠愛は本当に自然に2人の生活に溶け込んできた。

天才と言われる頭脳を持ちながらも、どこか危なげで目が離せない樹珠愛。

眠るとき、必ずそばに人がいるのを確かめるように子猫のように擦り寄る気持ちが

初めてわかった。

西條自身も小さな時から天才と呼ばれプレッシャーと戦ってきた。

それでも、周りに誰もいなかったという事はなかった。

和道に出会った時、この子に自分が受けてきた愛情を注ぎたいと思った。

そして、和道に自分の全てを捧げたいと思った。

しかし、西條は今、目の前の樹珠愛にその時と同じ感情を持つのに気がついた。

「私でよろしければ、樹珠愛様のお側におります。」

そう言いたい気持ちを理性で抑えていた。


しばらくした後、樹珠愛が少し落ち着いてきた。

「ごめんね。」と小さく言う樹珠愛に修吾が口を開いた。

「樹珠愛、謝らなくていいんだよ。

 ここにいる人は樹珠愛が好きだから側にいるんだ。

 だから、私は謝られるより違う言葉の方が嬉しいな。」


樹珠愛は、一瞬眼を見開いて修吾を見た。









・・・・樹珠愛、謝るよりも聞きたい言葉があるな・・・。


・・・聞きたい言葉?・・・


・・・ああ。こんな時は・・・



「ありがとう。」樹珠愛は涙を流しながら言った。


・・・ありがとう・・・素敵な言葉だよね・・・


「ジュリア、横になった方がいい。君には睡眠が必要だ。」

フィルが静かにそう言ったので、和道が優しく抱きあげ

ソファーベッドに樹珠愛を横たえた。

「皆いるわよ。安心して寝なさい。」

隆道が樹珠愛の額にキスをした。

皆が樹珠愛のベッドを囲んだ。

樹珠愛はちょっと微笑んで眼を閉じた。

少しするとスースーと寝息が聞こえる。







『ジュリ・・・?俺のリトルプリンセス。』

低くて優しい声がする。

『キース?キースなの?』

『ああ。』

『ジュリ・・・。』

大きな手が頭を撫でる。

『樹珠愛、学校はどうだい?』

『慎吾。楽しいよ。紅子って友達ができたんだよ。』

見るとキースと慎吾が微笑んでいる。

樹珠愛は手を伸ばそうとしたが触れれない。

『ジュリ、お前は俺が愛したただ一人の女だよ。』

キースは菫色の眼を細めながら言った。

『ああ、樹珠愛。私も世界中のどの女よりも愛している。

 君は私の自慢の娘だよ。』

『キース・・慎吾?行かないで・・。』

『ジュリ、もう私達に囚われてはいけないよ。』

キースは樹珠愛の額にキスをした。

『樹珠愛、私達は君の幸せを願っているよ。』

慎吾も樹珠愛の頬にキスをした。

『キース・・・慎吾・・・。』

『ジュリ・・ありがとう・・・。』

『樹珠愛・・・ありがとう・・・。』

強い光が二人を包んだ。

樹珠愛の眼から大粒の涙が零れ落ちた。



『キース・・・慎吾・・・ありがとう。』

樹珠愛は無理に笑顔を作りながらそう呟いた。






 
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