君と僕らの三重奏

       第7章 君が隠してきたもの −4−

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「全て・・話すね・・・空白の3年の話を・・・。」

樹珠愛は、西條が差し出したハンカチで涙を拭くと

静かに話し始めた。







私が医師の免許を取るまでは、私達は転居するとしても

そんなに遠くに引っ越すことは少なかったの。

でも2000年を過ぎてからキースは長くても1月短いときは、半月で

転居するようになったわ。

それは、キースに対する圧力が原因。


特に中東情勢が不安定になってからは、反政府組織もキースに接触を求めるようになったり、

殺そうと動いていたから私達も常に警戒しながら生活するようになったの。

キースは極秘である国の軍事関係のアドバイザーもしていたのがどこからか漏れてしまって、

その国がSPをつけてくれたんだけど、何人か殺されてしまったわ。

その国の政府が私達を受け入れて保護すると申し出てくれたのだけど

キースには世界中で仕事があったし、半拘束されるような生活も嫌だったから

断ったようなの。



そのあたりから、キースは私に自分の知識を教え込むようになったわ。

キースの財産は目に見える財産以上に特許や知識を必要とするものが多いの。

だから、私はキースと一緒に仕事をしながらそれを覚えていったわ。

この辺りから、キースは表向きにできる仕事を私に移行していって

軍事プログラムの構築や防衛プログラムの構築などの断り切れなかった

機密性の高い仕事をするようになったわ。キースはその仕事を納品したら

手を引くという条件で請け負ったみたいなの。



その仕事が一段落したのが2003年の1月だったの。

そして、キースは自分が脳梗塞を起こしたという情報を流して仕事を休止することにしたの。

そして、表向きの仕事も最小限にして私が日本の高校に通うようになったら、

キース達も日本に来て静かに暮らすつもりだったのよ。

噂の信憑性を高めるため、私達はニース等に滞在してゆったりとバカンスを過ごしたわ。



4月に入ると周りも落ち着きだしたので、慎吾がガラパゴス諸島に行きたいと言い出したの。

私達は世界中歩いてきたんだけど、観光というものはあまりしたことがないから

皆で観光しようって。キースも少し開放的な気分になっていたから

慎吾の誕生日も近いから、エクアドルに行くことになったの。

エクアドルで私達はキトという町に滞在してまずは内陸の観光をして

ガラパゴス諸島をクルージングしてグアヤキルという街に行ったの。

ここで、ちょうど慎吾の誕生日だったから市内のレストランでお祝いしたの。

グアヤキルは本当に美しい街でキースも慎吾も気に入ったようなので

少し滞在するために市内にマンションを購入してそこに滞在することにしたの。




そして、あの日の朝が来た。

慎吾は、前の日から風邪をひいていたからキースは充分に睡眠が取れるように

風邪薬に睡眠薬を多めに調合したみたい。

キースと私は食材を仕入れるのに出かけることにしたの。

慎吾が好きな和食にしたくて少し遠くのマーケットで買い物をしたら

マンションの周りがすごい人だかりで、

私達の部屋の隣の部屋の窓から火が噴き出していたの。



それを見たキースは何かを言いながら、私の鳩尾に拳を入れたの。

私は、キースのスミレ色の眼と何か言った口元・・・を見つめたまま

気を失ったわ。

眼を覚ました時、窓からは火が噴き出してキースが中に入っていったことを知った。

消火されて2人は一緒に外に運び出されたわ。



私は、医者であることを話して特別な業者に連絡をして2人の遺体を運び出したの。

何かあったときはそうしろとキースに言われていたから。

キースは、ハワイ諸島の近くに自分の島を持っていて、そこは何かがあった時に

遺体を持っていって欲しいと生前何回も私に言っていたの。

私は、ドライアイスで二人の遺体を腐らないようにしながらその島に一人で行った。

行き方はキースに聞いていたけどその島に行って驚いたわ。



その島は、何かあった時の為にキースが用意した要塞のような構造になっていたの。

キースは1つの島から海底にトンネルを作って近隣の見かけ無人島の地下にかなりな

施設を作っていてそこには遺体の焼却炉とキースと慎吾の遺言書のコピー、

そして、キースの全ての仕事の軌跡と万が一の時の指示書があったの。

私は二人の遺体を焼却炉で焼き、遺言に従い二人の遺灰の半分を海に流し

キースが病で伏せているように見せかけて仕事を以前と同じようにしていたわ。

何よりもキースの全ての仕事のことを自分の頭に叩き込み、後の為に情報を整理する作業で

軽く2年がたってしまったの。



特にキースが生み出した手術の術式をマスターするためのトレーニングが時間がかかったわ。

私の手術の腕がめきめき上達しているので、フィルもそうだろうけどキースがいると周りに

印象づけたと思うんだけど、私はキースの手術のしている映像、キースが人体を覚えた様々な画像を見て

記憶していただけなの。

気がついたら3年がたっていて、先に慎吾の死亡診断書を書いたの。

そして、半年後、大々的にキースが死んだという噂を流して遺灰の残りの半分を

二人が出会った街、サンフランシスコの墓地に埋葬したの。

その時はフィルも来てくれたんだよね。




私は、ようやくここで、これからの自分のことを考えることができた。

生前、慎吾が何度も日本で学校にいくべきだよと言っていて、

キースもそれに賛成していたのを思い出して、隆道パパを探して相談したんだ。

でも、時々とても怖くなるんだ。



1人ぼっちはすごく不安で・・寂しかった。

呼びかけるとキースも慎吾もそばにいそうで何度も呼んでみても

誰もいなかった。



キースが私に催眠療法を施したことも知っている。

さすがに詳しい内容まではファイル見れないようになっていてわからなかったけど・・。

1人で床の上で眼を覚ますことも初めは多かったの。

眼を覚ましたとき、誰も周りにいないことが怖かった。

だから、前にも増して眠ることが怖くなったの。


でも、今は和道と龍哉さんがいる。隆道パパと修吾パパもいる。

義道おじいさまもフィルもいる。

それでも時々怖くなるの、また一人ぼっちになっちゃうんじゃないかって。







樹珠愛はここまで話すと涙を押えられなくなった。

和道が抱き寄せると樹珠愛はこらえきれなくなったようで

泣きはじめた。

その声は静かでそしてとても・・・・・

悲しかった。



 
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