君と僕らの三重奏

       第7章 君が隠してきたもの −3−

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「樹珠愛、ただいま。お土産に京都の和菓子戴いたから皆で一緒に食べよう。」

本家の隆道と修吾の住んでいる棟に作られた広い居間に

義道が入って来ながら言った。

「おじいさま。お帰りなさい。」

樹珠愛は、居間の一角に置かれたソファーベッドから起きあがり義道の頬にキスをする。

「樹珠愛、倒れたんだって?大丈夫か?」

義道が樹珠愛の顔を心配そうに見て言った。

「おじいさま、心配かけてごめんなさい。

 でも、かなり調子が良くなったから大丈夫よ。」

「それなら良いが・・・無理だけはするなよ。」

義道はそう言って樹珠愛の頭を撫で、着替えをしに自分の部屋へ行った。




「樹珠愛ちゃん、起きたの?」隆道が話し声を聞いてか、顔を出した。

「隆道パパ、大丈夫だって。起きたくてうずうずしているんだから。」

「だーめ!!フィリップさんがベッドに縛り付けても休ませろと言ったんだから。」

「うーーっ。」

子供のように頬をふくらませる樹珠愛にクスリと笑いながら隆道が

「夕食は皆で食べようということになったのよ。

 用意しているから、行きましょう。」

そう言ったので、樹珠愛は嬉しそうに起きあがり隆道とダイニングルームに向かった。



ダイニングルームに入ると、皆がもう席に座っており

体に優しいメニューがテーブルに広がっていた。

夕食は始終和やかな雰囲気で、笑い声が途絶えることが無かった。

夕食が終わり、皆で居間の方に移ると和道が樹珠愛の横に座った。

逆の横に西條が座る。




樹珠愛は、何の話をしようとしているのかを察して少し顔がこわばった。


和道が樹珠愛の手を握りながら言った。

「樹珠愛、俺は、お前のこと大切な人だと思っている。

 お前もそう思ってくれてるだろう?

 俺は、お前がここのところずっと無理しているなと思っていたんだ。

 それも、おまえ自身が仕事をたくさん作っている。

 お前が、苦しそうにしているのを見るのは俺もすごく辛い。

 もちろん、龍哉もそうだし、父さまも修吾さんもおじいさまもフィリップさんも

 同じだよ。」

「苦しい・・?」

「ああ。何とかしてやりたいと思う。

 せめて、お前の苦しみを理解してあげたいと俺は思う。」



「私もですよ。」西條が樹珠愛のもう一方の手を握って言った。

「私もよ。樹珠愛ちゃん。」隆道が言う。

「私もだ。」修吾が言う。

「わしもだよ。」義道が言った。

「樹珠愛。私もだよ。」フィリップも言った。

樹珠愛は目を見開いた。その目に涙が溢れる。



和道が樹珠愛の髪を優しく撫でた。

「樹珠愛、俺にも樹珠愛の苦しみ分けて欲しい。

 俺は、キースさんのように頭が良いわけでないから

 何も言ってあげれないかもしれない。

 それでも、樹珠愛の側にいて話を聞いてあげることならできる。

 泣いている樹珠愛を抱きしめてあげれる。

 お前が一人で泣いていると考えると胸が痛むんだ。」



「樹珠愛様、私もそうですよ。

 まだ数ヶ月しか一緒に暮らしておりませんが、

 貴女と一緒にいてとても楽しいと思っていますし、

 自分が自分らしくいれるような気がします。

 でも、そんな貴女が何かを思い、泣いているのは

 とても辛いです。だから、少しでも貴女の気持ちが

 軽くなると私も嬉しいですよ。」西條が隣から言う。



「樹珠愛ちゃん、私もいるわよ。

 樹珠愛ちゃんは、血は繋がってないけれど私の自慢の娘よ。

 だから、辛いときは私のことも思い出して欲しいわ。」

隆道が後ろから樹珠愛の頭を撫でて言った。



「樹珠愛、君を見ていると私は慎吾のことを思い出すんだ。

 君は慎吾に育てられただけあって似ているんだよね。

 そう思うと、君のこと愛しくて愛しくて。

 慎吾も君と一緒に泣いただろう?笑っただろう?

 私も樹珠愛と一緒に泣いたり笑ったりしたいと思うよ。」

修吾が後ろから樹珠愛を抱きしめて言った。



「樹珠愛、わしもお前に会えて本当に生きていて良かったと思ったんだ。

 宗輔が死に、翠も幼いお前も死んだと聞かされたとき本当に悲しかった。

 それでもお前は生きていてくれた。そして、こうしてわしが生きとるうちに

 会えることが出来た。いつでも笑って欲しいと願っている。

 だから、わしにもお前の話きかせてくれ。」

義道が静かに言った。



そして、フィリップも口を開いた。

「ジュリア、君が一番大変だったのにあの時怒ってしまってすまないと思っている。

 一番苦しかったのは君なのにね。後でよく考えるとわかったことなんだ。

 そう、ついつい君の年齢を忘れてしまうんだ。君はまだ15歳なんだよね。

 これからはもっと私にも甘えて欲しい。」




樹珠愛の目からボロボロ涙がこぼれた。

皆が優しい目をして自分を見てくれている。

それが嬉しくて樹珠愛の涙はしばらく止まらなかった。


 
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