君と僕らの三重奏

       第7章 君が隠してきたもの −2−

本文へジャンプ




「樹珠愛が倒れたって?」次の日の朝早く、和道は

本家の玄関に迎えに出た修吾に心配そうに聞いた。

「ああ。今はフィリップさんと隆道がそばにいる。

 昨日は、急に倒れてうなされていた。」

「樹珠愛様は・・なんて?」西條も心配そうに聞く。

「「置いていかないで。私を置いていかないで。」

 それと、慎吾とキースの名を時々呼んでいたよ。

 今は、薬で眠っているよ。」

二人は修吾の後について隆道と修吾の寝室に入って行った。


倒れた樹珠愛を隆道が自分達のベッドに運んだらしい。

大きなベッドの枕元にフィリップと隆道が座っていた。

樹珠愛は静かに眠っている。

顔色が少し蒼く見える。和道は、思わず樹珠愛の頬にそっと手をあててみた。

「お爺様は?」和道が小さな声で聞くと隆道も低い声で、

「出張で大阪に行ってる。昨日は泊まりだったのよ。」と言った。

「まだ、薬が効いています。少しだけ隣の部屋で話をしましょう。」

フィリップが席を立つ。

「私は、ここにいる後で、隆道が教えてくれればいいから。」修吾がそう言って

ベッドの横の椅子に座って隆道がしていたように樹珠愛の手を握った。

隣の部屋に行くと、隆道が口を開いた。

「樹珠愛は大丈夫なのですか?」

フィリップは小さな溜息をついて言った。

「表面上はたぶん目覚めるとピアノを弾いていたことくらいしか覚えてないでしょう。

 樹珠愛は小さな時、トラウマを残すようなことがあった。その時、キースが催眠治療をしたのです。

 それは、ある以上感情が高ぶると眠くなってその事を忘れるという催眠です。

 今回もそれが働いたと思います。」

「じゃあ、先日雷の夜のことと同じようなことということですか?」

「そうですMr.西條。ああ、雷の夜はまだ、そうなのですね。」

「さっき、表面上と話したけどどういうことです?」和道が聞く。

「あくまでも表面上忘れたということです。本質的なトラウマは残っているということです。

 実は、私もキースと慎吾がどのように亡くなったかは知らないのです。」

「じゃあ、樹珠愛様以外真相はわからないと言うことですか?」

「ええ。そうです。どこの国でいつ亡くなったかもわからないです。

 キースの意思が大きく働いたとは思いますが、樹珠愛は何年も2人の死を

 隠し続けていました。」

「俺は、樹珠愛自身も死に向かい合えていない様な気がする。

 あいつは、聞いたことに関してはちゃんと答えてくれる。

 だから、俺たちにそのことを話すことが樹珠愛自身にも必要だと思うんだ。」


和道が言うと隆道も口を開いた。

「そうね。そして皆がそばにいるって、こう感覚で感じて欲しいわね。」

フィリップは、少し考え込んでいたが口を開いた。

「わかりました。もう少しで目が覚めるでしょうから

 数時間は様子を見ましょう。落ち着いているようでしたら

 夜にでも話を聞きましょう。念のため私もいろいろ用意致します。」

「私は、お父様に連絡して早く帰るように話をします。」隆道もそう言って

立ちあがり、和道や西條、フィリップは樹珠愛の眠っている部屋に戻った。

少しすると隆道も部屋に入ってきた。



和道はベッドに座り、心配そうに樹珠愛の頬を撫でると

樹珠愛が小さくもぞもぞ動いた。子猫のようですごく可愛い。

「う・・・ん・・・和道?今・・・何時?」

眠そうな声で樹珠愛が言う。

どうやら、寝ぼけてマンションにいると思っているらしい。

「もう、9時だよ・・・。」

「う・・・そ!!9時!!」樹珠愛はがばっと起きあがり

周りの人を見て不思議そうな顔をした。



「馬鹿娘。オーバーワークで倒れたんだよ。覚えてないかい?」

フィリップが言う。

「あっ・・昨日本家来てピアノ弾いてたけど・・・・・。」

「本当、樹珠愛ちゃん、急に倒れるから心配したのよぉ。」

「ああ。それで、フィリップ先生を呼んだんだよ。」

「心配かけてごめん。隆道パパ、修吾パパ。

 フィル来てくれてありがとう。

 和道も龍哉さんもありがとう。」

樹珠愛は周りを見回してそう言うと、皆がほっとしたように微笑んだ。



 
   BACK  NEXT 

 Copyright(c) 2007-2010 Jua Kagami all rights reserved.