君と僕らの三重奏

       第6章 高校入学 −9−

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「樹珠愛様、先日紅子様のお家に遊びに行かれたのでしょう。

 それなら、樹珠愛様も紅子様を招待なさってはいかがですか。」

月曜日にマンションから学校に行く車の中で西條が言った。

「そうだ。学校の帰りでもマンションに遊びに来てもらえよ。」

和道もそう言うと樹珠愛は少し考えて、

「じゃあ、明後日の帰りでも紅子を連れてこようかな。」と言った。


樹珠愛は、教室に行くと紅子にその話をすると

「行く!行く!」と紅子は嬉しそうに答えた。


紅子にとって樹珠愛は不思議な存在だ。

入学当時、東条家に関係があると察した者が樹珠愛に近寄ってきたが

さりげなく樹珠愛はその者達を遠ざけている。

休み時間は、その前の時間に出た宿題を解いていることが多いし、

おしゃべりを楽しむこともない。

もともと没頭すると周りが見えないらしい。

それでも、クラスで浮くと言う訳ではなく、クラスメイトはむしろ好意的に樹珠愛を見ている。


基本的に樹珠愛は優しい。

宿題なども聞かれるとちゃんと教えているし、

保健委員として怪我した人や病気の人を保健室に連れて行って

先生がいなくても簡単な手当てならしてくれる。

とにかく何かと頼りになる存在という感じで樹珠愛に頼る人も多い。

物腰が柔らかで親切なので、自然と一緒にいて今までは何かと浮いている存在だった

紅子も他の子と話をするようになった。

しかし、物腰は柔らかで、色々な雑談はするが家族のことや両親の話は一切しないと

言うことも紅子は知っていた。



だから、樹珠愛に遊びに来るように誘われて紅子は本当に嬉しくてすぐ頷いたのだった。



・・・水曜日の朝・・・

「龍哉・・・朝からすんごく甘い匂いがするんだけど・・・。

 しかも・・濃いバターの匂い・・。」

ベッドから起きあがりながら和道が言う。

確かに朝のすがすがしい香りとはかけ離れた濃い香りが充満している。

2人はダイニングに顔を出して驚いた。

テーブルの上には、スコーン、フルーツケーキ、クッキー、レモンメレンゲパイなどの

お菓子が並んでいる。

樹珠愛は、エプロン姿で、どこから持ってきたのか大きな食パンの型から

パンを取り出していた。

「樹珠愛、どうしたの?」和道が驚いた様子で聞いた。

「うん。紅子来るって思ったからお菓子でも焼こうと思ったんだ。

 そして、作りはじめたら、久しぶりで楽しくて、

 折角だから本格的なアフタヌーンティを出そうと思って・・・。」

「すごい、量ですね。」

「うん、本当お菓子なんて、何年も作ってないから・・。」



和道と西條はさっと目を合わせた。

ああ・・・この子は、思い出と一緒に一晩中これを作っていたんだ・・。




西條が微笑みながら言った。

「樹珠愛様、よかったら会社にこの御菓子持っていってよろしいですか?

 社長にも差し上げると喜ぶと思いますよ。」

樹珠愛は、そうね。と頷いて菓子を綺麗にラッピングして、紙袋に入れる。

ちゃんと、隆道の分を別に包んで入れるあたりが樹珠愛らしい。

「親父・・きっとまた頬の筋肉ゆるむだろうな。」

それを見ながら和道が呟いた。

実際隆道は、樹珠愛を猫可愛がりしておりその樹珠愛の手作りと聞いたら

大切に食べるに決まっている。


放課後、樹珠愛は、迎えの車に乗ってマンションに紅子を案内した。

「マンションって入ったことないから楽しみ。」

紅子はそういいながら樹珠愛の後についてくる。

マンションと言えども、かなり豪華で玄関も広い。

玄関を抜けると、広いリビングがあり、ルーフバルコニーがついた

ベランダが見え、そこには白い椅子とテーブルが置かれていた。

天気が良かったので、樹珠愛はそのテーブルの上にアフタヌーンティの用意をした。

数分後、そのテーブルの上には3段のお皿がのり、傍らにはティーコゼで包まれたティーポットが

置かれていた。


 
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