君と僕らの三重奏

       第6章 高校入学 −8−

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「マリア〜♪」

樹珠愛は、オフィスにいた優しそうな女の人に

抱きついていった。


「樹珠愛・・本当に無謀な子。フィルに聞いた時私も驚いたのよ。」

マリアはそう言いながら腕の中の樹珠愛を優しく抱きしめた。

「うん・・・。」

「顔色も良くなって女の子らしくなったのね。幸せ?」



樹珠愛は嬉しそうにマリアの顔をみあげながら言った。

「すごく、幸せだよ。」

「そう・・。良かったわね。」

マリアは、樹珠愛の頭を小さな子供にするように撫で、

両頬にキスを降らした。




「あっ。フィル、マリア。西條さんは、私の家族なんだよ。」

樹珠愛は、顔をあげて2人に言うと2人は驚いたように西條を見つめた。

「樹珠愛・・家族・・って?」

「うん?西條さんと和道さんと一緒に暮らしてるの。私・・。」

「君が、眠れるようになった恩人はMr.西條なのか。ありがとう。

 樹珠愛の友人として、お礼を言うよ。」

フィリップは、西條に手を差し伸べて言った。

「いえ。お礼を言われるまでもないです。

 私たちは、樹珠愛と一緒に暮らすのを楽しく思っていますから。」

西條はその手を握りながら言った。

フィリップは樹珠愛に微笑みかけると

「樹珠愛、マリアが君と買い物に行きたいと言っていたんだ。

 一緒に行ってくれないかね?服とかほとんど何も持って来なかったからね。」

と言った。

「そうそう。フィリップは買い物嫌いだから、ねえ樹珠愛つきあって。」

マリアもそういったので、樹珠愛は一緒に買い物にいくことになった。

2人がオフィスを出て行くとフィリップは、西條に椅子をすすめて言った。





「樹珠愛は私に会いたくなかったはずですよ。」

西條は驚いたようにフィリップを見つめた。

「そんなことはないですよ。樹珠愛はあなたのこと何度も聞きました。

 キースの次にすごいお医者様だって伺っておりますよ。」

「それは、樹珠愛の優しさですよ。つかぬことを聞きますが、

 貴方はキースの死のことを知っているのですか?」

西條は頷いた。

「私はね。それを知った時、樹珠愛を怒ってしまったのですよ。

 何で、私に相談しなかったか。何で頼ってくれなかったか。

 あの子を怒鳴りつけてしまいました。本当に大人げの無い

 話ですよ。」

フィリップはそう言いながらブラインドの隙間から外を眺めた。

西條は樹珠愛と初めて会った次の日の朝のことを思い出した。



樹珠愛の話を聞いて樹珠愛を抱きしめたのは和道だった。

まだ、その時はなんの事情も知らなかったが和道は樹珠愛に

「よくわからないけど、お前がんばったんだな。3年前なんていうと12歳だったのだろ?

 俺なんて12歳の時、龍哉を振り回してばかりだったぜ。よくがんばったな。」

と言って抱きしめた。

その時の樹珠愛は何かに耐えるように唇を噛みしめていて、すごく無理しているような

気がした。

だから、思わず「悲しいときは泣いていいのですよ。もう無理することはない。

そんなに唇をかみしめないで、泣きなさい」という言葉が口からでたのだ。

そして、樹珠愛はただただ静かに涙を流し続けた。

声にならない声がそれでも謝っていた。

それがすごく痛々しかった。




「樹珠愛様の心を開かせたのは東条和道、私が仕えている方です。

 和道様は、あの時何も事情がわからなかった。それでも、樹珠愛の話の中で

 大きく共感できる部分があったのです。」

「共感できる部分?」

「ええ。それは、孤独です。和道様は、東条コーポレーションの後継者です。

 私と出会う前は周りには大人も子供も私利私欲のために和道様に近づく者が多く、

 和道様はすごく孤独だったのです。だから、樹珠愛様から話を聞いた時真っ先に

 樹珠愛様を和道様は抱きしめて何度も、良くがんばった。と髪をなでていました。」

「そう・・樹珠愛はそう言ってくれる人を本当は待っていたんだよね。

 人間なんて結局自分中心の生き物でね。

 私はあの子を傷つけてしまった。」

「それでも、樹珠愛様はあなたの事大切に思っておりますよ。」

「ああ。優しい子だからね。」

フィリップは切なげに目を閉じた。

「樹珠愛様は、確かに天才かもしれません。

 でも、私はまだ、子供だと思っています。

 しかもすごく不器用な子供です。

 人に無条件に甘えることを知らない。

 だから、いつでも味方でいたいと私は思っています。

 そして、フィリップ様、あなたもその仲間に入りませんか?」

フィリップは少し微笑みながら言った。

「ああ。そうさせてもらおうかな。さあ、話を変えてビジネスの話しようか。」






その日の夜、和道が居間で缶ビール片手にDVDを見ていると

西條と樹珠愛が帰ってきた。

「樹珠愛?お前疲れてないか?」

「うん・・。」

樹珠愛はぐったりとソファにもたれる。

「どうした?友達のとこ行くって言ってたよな?」

和道が樹珠愛のそばに行き、顔を覗き込む。

「うん。紅子のとこは、楽しかったよ。黒い服のお兄さん達と

 楽しくお弁当食べたの。でも、その後東条病院の新しい院長の

 フィリップに会ったとこまで良いんだけど、問題が奥さんのマリア。

 買い物につきあったんだけど、あっち見て、だめ。こっち見て、違うのにする。

 結局、一番最初の店がいいとか引っ張りまわされたの。

 なんで、あんな非効率な回り方するのよー。」

樹珠愛はそう言ってソファーに身を投げ出した。



 
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