君と僕らの三重奏

       第6章 高校入学 −6−

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真田はまず広い中庭を案内してくれた。

「すごーい。」

東条の本宅の庭も素晴らしいが紅子の家の庭もとても美しく

ソメイヨシノが何本も花を咲かせていた。

「この前、おじいさまに枝垂桜見せていただいたけど、こちらの桜も綺麗!」

「ああ、樹珠愛は桜あんまり見たことないのか。」

「うん。紅子。四季があるって素晴らしいね。」

樹珠愛は嬉しそうに言った。



庭の片隅では数人の男が木刀を持って鍛錬のようなものをしていた。

「真田さんあれは、剣道ですか?」

「ああ。あれは、剣術です。剣道よりも実践的なんですよ。」

「へえ〜。もう少し近くに見に行ってもいいですか?」

樹珠愛が言うと真田が頷いたので3人はそちらへ歩いて行った。



男の一人が紅子を見ると「お嬢もやりませんか?」と言った。



紅子は樹珠愛に少しだけ・・とか言うと男に混じって木刀を振りはじめた。

「紅子・・強いですね。」

「ええ。勉強よりあちらのほうが好きでいらっしゃいますので。」

溜息をつきながら真田が言った。


紅子は、強そうな男と打ちあいはじめた。

「楠瀬様、紅子様はあれを始めるとなかなか終わらないのですよ。」

真田がそう言った時、大柄の男が樹珠愛の方に来た。

身長が190センチ位あって、切れ長の目がとてもきつい。



「お嬢ちゃんもやってみないか?」

「やってみていいんですか?剣道知らないけどいいんですか?」

「いいぞ。なあに怪我なんてさせないから。」

「上村?この方は普通のお嬢様ですよ。」真田が慌てて言う前に樹珠愛は

「やりたいです。」と嬉しそうに言って木刀を持った。

「じゃあ、好きにかかってきていいよ。」上村が静かに木刀を構える。



樹珠愛は独特な持ち方で刀をかまえ、精神を集中させる。

「ほう・・・経験者か・・。」上村は唇をシニカルにあげて微笑んだ。

先に動いたのは樹珠愛だった。木刀で突くように攻撃に出る。

上村はそれを薙ぎはらい攻撃に出ようとすると、樹珠愛はすばしっこくそれを交わす。

しかし、力の差は歴然としていて上村に木刀を払われた。

咄嗟に樹珠愛は体を斜めに捻りながら近くに立てかけてあった竹箒を槍のように持ち、突いた。

「お・・い・・それは・・反則だろ・・?」上村は驚いたように言いながら

その攻撃をかわしながら木刀で箒をはらおうとするが樹珠愛はすばしっこい。



「あ〜。やっぱりだめだあ。」樹珠愛はそう言いながら箒を置いた。

肩でぜ〜ぜ〜言っている。

上村は、

「武道をやるには華奢すぎるな。でもそれだけできるなら自分の身くらい守れるな。

 それに、箒でも武器にしようと思うところが気に入った。」

と言いながら、タオルを樹珠愛に渡した。

「よく頑張りましたね。上村は強いですからね。」

と真田が冷たいレモン水を持ってきてくれた。

「上村さんの構え、かっこよかったです。やはり剣術と言っても違いますね。」

「ああ?お前は中国武術の構えだったからな。

 珍しいな・・中国武術なんて・・。今度教えてやろうか?」

樹珠愛は嬉しそうに上村を見あげて言った。

「ええ!!是非。」

「はははっ。面白いお嬢ちゃんだな。」

「私、楠瀬樹珠愛って申します。」

「俺は、上村光輝。ここに遊びに来て俺が暇だったら教えてやる。」

「わあ!ありがとうございます。」

樹珠愛につられて笑顔をみせる上村を真田が驚いたように見た。



紅子はまだ夢中に木刀を振り回している。

「で・・なんで、お嬢さんがここにいるのかな?」

「いや、このお邸の探検中なんです。」

「探検?」

「ええ。ずっと外国暮らしだったので、こういう日本邸宅が珍しくて。」

上村が立ちあがりながら言った。

「じゃあ、俺が案内してやる。」

真田が驚いたように上村を見あげた。

「どうせ、お嬢はまだまだ打ち合っているだろうし案内してやるよ。

 真田はここにいて終わったら携帯鳴らしてくれ。さあ、行くぞ。」

そう言って真田が庭を後にした。

樹珠愛は、その後を嬉しそうにニコニコついて行った。




 
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