君と僕らの三重奏

       第6章 高校入学 −5−

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入学式の時に東条義道が迎えに来たという噂は

次の日には学校中に広まっていた。

「おじいさまって有名人なのね。」

机に突っ伏しながら樹珠愛はそう言う。



紅子は笑いながら「樹珠愛、どうしたの?」と聞いてくる。

「だって、朝から知らない人に声かけられてばかりだよ。」

ぐったりした感じで樹珠愛が言う。

朝、校門を潜ってから教室にたどり着くまで、色々な人が

話しかけてきた。

「それに、みんな顔張りぼてみたいなんだよ。」

「なんじゃ?その張りぼてとは?」

「えーー。張りぼてでしょ?顔だけニコニコしていても

 心では計算しているって言うの。」

紅子はクツクツ笑った。



「あ〜。そう言うことか?ひょっとして私のことも何か言われた?」

「あ〜。すごいつまんないこと言われたよ。」

樹珠愛は顔を顰めて言った。


校門を少し過ぎたところで上級生らしい男の人に呼びとめられ、

蓑原紅子の実家は極道だからつき合わないほうがいいと言われたのだった。

「で・・・樹珠愛なんて答えたの?」

「え〜。ご心配戴いて有難いですが、あなたは私の友達を選ぶ眼力を否定するのですか?と言った。」

「ありゃ。それで、樹珠愛は全然気にならないの?」

「何で気にするの?」驚いたように樹珠愛が言う。

「私と仲が良いだけで狙われることもあるかもよ。」

「えーーー。そうなの。でも、大丈夫。自分くらい守れるし。逃げるの得意だから。

 ついでに、怪我の治療も得意だから紅子も助けれるしね。」

へらっと樹珠愛が微笑むと紅子は嬉しそうに笑った。

「まいった。樹珠愛には。よし、週末家に遊びに来いよ。」

「うん。」嬉しそうに樹珠愛は微笑んで言った。

紅子は、このクラスでも浮いた存在だった。

それは、表向きは蓑原興業の社長令嬢だが本当は関東を拠点にした

広域暴力団『龍翔会』の本家の一人娘だからだ。

紅子が屈託なく笑うのをクラスメートは不思議そうに見ていた。



そして土曜日、樹珠愛がマンションの下で待っていると

黒塗りの車が来て紅子が降りて来て乗るように言った。

樹珠愛は、ドアを開けるために外に出た真田に挨拶をすると

車に乗った。

「保護者に何て言ったんだ?」

「あ〜。紅子の家に遊びに行く。って言ったら楽しんでくるように言われたよ。」

「そうなのか?まあ、少し驚くかもしれないけど、あまり気にするな。」

車に乗った樹珠愛に紅子は言った。

車は、落ち着いた和風の玄関に横付けに停まった。

紅子が車を降りるとダークスーツの男達が頭を下げ

「おかえりなさいやし。お嬢。」と言い、樹珠愛にも

「いらっしゃいまし。御客人。」と言った。

紅子はドキドキしながら樹珠愛を見たが樹珠愛はいつもと同じように

微笑んで優雅に会釈をしている。

(つくづく期待を裏切る子だわ。)紅子はそう思った。

広い玄関を抜け、紅子の部屋という和室に行くと

紅子は不思議そうに樹珠愛をみた。

「樹珠愛?あんたってどうして落ち着いていれるの?

 普通、こういうところに来ると萎縮すると思うけど。」

「だって、同じ人間じゃない。」けろっと樹珠愛は言った。

樹珠愛の言うことは正しい。

でも、それは言う以上に大変な事なのだ。

「紅子の家って広いね。探検したい〜!!」なんて暢気にいう始末だ。

「ああ。いいぞ。何も無いけど探検させてやる。」

紅子はそう言って立ちあがり真田を呼んだ。

真田も紅子の話を聞いて驚いた様子だったが、

「お嬢がそのつもりならわかりました。」と言ってくれた。



 
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