君と僕らの三重奏

       第6章 高校入学 −1−

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朝早く、玄関のチャイムが鳴り西條が出ると栞が立っていた。

栞はマンションに入ってくると真新しい制服に着替えた樹珠愛を

目を細めてみた。

「早くそこの椅子に座って。」

栞は樹珠愛を椅子に座らせると持ってきたバックからブラシやドライヤーを出し、

髪を弄り始めた。

「今日は、新入生総代で挨拶するんでしょう?写真映りよくしなきゃ。」

妙に張り切っている。

「栞さん、それ世間で言うお母さんみたいだから・・・。」

「だって、樹珠愛ちゃん素はいいのに髪型とか気にしないから・・。

 いい?樹珠愛ちゃん、毎朝この時間に来るから着替えて待ってること。」

その栞の迫力に樹珠愛は押されて頷いた。

栞に素顔風メイクもされた樹珠愛を見て西條は、

「綺麗ですね。」と優しく微笑んだ。



和道も今日はオーダーメイドのスーツに着替えている。

学園理事の父の名代として式に参加する。

西條は、樹珠愛の保護者として参加すると言っても、実質の保護者は隆道なので

その代理としての出席だ。



蒼明学園は、幼稚舎から大学部までの一貫教育を実践している学校である。

良家の子女が多く、ストレートで大学まで進む者が多いので外部入学生にとっては

狭き門である。

蒼明学園の内部生は外部入学生と同じ試験を受け、一番できのよいものが

入学式の総代となる。和道も小・中・高とずっと総代を務めてきた。

そして、今回、外部生の総代ということも女性ということもこの学校にとって

初めての事であった。

だから、生徒の中には、その結果を納得してない者もいるのだ。



和道は樹珠愛を心配そうに見つめた。

昨夜、樹珠愛には学校で起こることを想定していろいろなことを話したのだが

本当に大丈夫か心配だった。

西條は、和道の肩にそっと手を置いて囁いた。

「和道様・・。樹珠愛様は大丈夫ですよ。」

「なあ、龍哉。世に言う親ってこんな気持ちなのか?」

「さあ、どうでしょうねぇ。私は和道様が入学された時の方が今以上に緊張致しました。」

西條は、そう言いながら微笑んだ。



・・・蒼明学園・・・

黒いリムジンが校門の所に停まる。この学校では、そうそう珍しい光景ではない。

しかし、助手席から西條が降りた時点で、生徒から小さな囁き声が漏れる。

「東条様だ・・。」

「きっと、来賓で来られたのだ・・。」

そして、西條が開けたドアから和道が出てくる。

若いながら体にぴったりとあったオーダーメイドのスーツを着た和道は

すごく堂々としていて様になっている。

和道もここでは既に外の顔になっている。

しかし、今日はいつもと様子が違う。

和道は、車の中に手を差し伸べ、その手に軽く手を重ね車から樹珠愛が現れた。

周りの生徒から何とも言えぬ溜息がもれた。

それは、いままで東条和道が個人的に女性をエスコートしているところを見たことがないからだ。


東条和道と寝たという女はいないわけではなかったが、

このように自分の車に女を乗せるということはありえなかった。



「樹珠愛、校門から続く桜並木は今が見ものなんだよ。」

和道はさりげなく樹珠愛を周囲の目線から庇いながらエスコートをする。

「すごい。綺麗・・。こんな光景初めてなの。」

樹珠愛は碧の目を細めながら桜の花を見つめた。

二人の後ろを西條が二人を庇うように歩いてくる。

和道の姿を見つけたのか、玄関から背の高い上級生が出てきて挨拶をした。

「東条先輩。おはようございます。」

「ああ。京野か・・。今日は来賓として出席することになったんだよ。

 君は生徒会長になったんだな。」

「はい。」嬉しそうにその男の人は和道に微笑み、不思議そうに樹珠愛を見た。

「ああ。紹介するよ。樹珠愛、彼は私の後輩で現蒼明学園生徒会長の京野 仁。

 京野、こちらは楠瀬樹珠愛。私の大切な人だ。」

京野は、一瞬とても驚いた顔をして和道を見た。

樹珠愛は綺麗に微笑んで

「京野様、楠瀬樹珠愛と申します。これからよろしくお願い致します。」

と手を差し伸べた。京野は、その手をそっと握り、

「楠瀬さん、入学おめでとう。何かあったらいつでも頼ってね。

 ああ、新入生は向こうで受付しているからね。」

と言った。心なしか頬が紅く染まっている。

和道は、「樹珠愛、受付に行っておいで。」と言うと樹珠愛の頬に小さなキスを落とす。

向こうでかすかな「まぁ。」という声がした。。


樹珠愛も"See you."と微笑むと和道にキスを返し、後ろの西條の頬にもキスをして

手を振ると受付の方に行った。

京野はその様子に驚いて硬直し、周りからざわざわと声が聞こえた。

「京野、樹珠愛はハーフだからね。日本の学校にも慣れていないから

 いろいろと頼むよ。」

和道はそう言って来賓の受付に行き、西條は他の保護者の波に沿って歩いていった。

京野は、しばらくぼーっとしていたが自分の仕事を思い出し踵を返した。



 
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