君と僕らの三重奏

       第4章 本家 −3−

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隆道は樹珠愛の困惑がわかったように頷いて言った。

「樹珠愛ちゃん、こちらが私の伴侶、東条修吾よ。

 今は、私の籍に入っているが、元の籍は佐々木だと言えば何か思い当たるかしら?」

「し・・・・修兄さま?まさか・・・慎吾の・・・?」

修吾は静かに頷いて言った。

「樹珠愛ちゃん、君のことはたまに来る手紙に書かれていたよ。

 会いたかったよ。」

樹珠愛の目から涙が頬につたわった。和道が樹珠愛にハンカチを渡した。

「声・・・そっくりです。慎吾さんは、私を育ててくれた家族でした。」

「樹珠愛ちゃん、前見せたアルバムはね樹珠愛ちゃんと慎吾さんの近況を知らせる為に

 送られてきたものなのよ。」隆道が言う。

確かに見せてもらったアルバムにはどれにも樹珠愛と慎吾が映っていた。

「慎吾は、安らかだったのかな?」修吾は静かに聞いた。

樹珠愛は涙を零しながら言った。

「慎吾は最期までキースに愛されていました。」

「そう。樹珠愛ちゃん、ありがとう。慎吾は、あんまり笑う子でなかったんだ。

 でも、写真ではいつも笑っていたよ。慎吾は君のことを娘と言っていたそうだね。」

修吾はそう言うと涼やかに笑った。



「さあ、今日は樹珠愛の合格祝いじゃないか?

 涙をお拭き。」優しく、義道が言った。

「そうよね。じゃあ、準備してもらうわね〜。」隆道も明るく言った。

それから、豪華な夕食が運ばれてきて表面上は賑やかな夕食が始まった。




夕食が終わると、樹珠愛は義道に言った。

「帰る前に宗輔おじいさまにご挨拶したいのですが・・。」

義道は一緒についてくる様に言った。

樹珠愛は和道を残し、長い廊下を歩いて行った。



渡り廊下を抜け、離れの広い部屋の片隅に仏壇があった。

義道は、仏壇に向かって声をかけた。

「宗輔。今夜は君が一番待っていた人が来てくれたよ。

 樹珠愛だ。とても綺麗で強くて優しい子だよ。

 私はね自慢の孫がまた1人増えたよ。」

樹珠愛は仏壇に線香をあげ言った。

「初めまして。宗輔おじいさま。樹珠愛です。

 私に素敵な名前つけてくれてありがとうございました。

 お母様は私を守ってくれました。もう会えていますか?

 私、こちらでお母様の分も一生懸命生きますから

 おじいさまとお母様はそちらで安心してくださいね。」

樹珠愛がそう言うと、義道は仏壇から位牌を取り出して言った。

「宗輔と翠さんは向こうで一緒にいると思うよ。

 翠さんが亡くなったって聞いたときこれを作ったんだ。」

それは、母の位牌だった。義道がそれを仏壇に戻すと

樹珠愛は再び手を合わせた。

義道は「もう一つ見せたいところがある。」と言って立ちあがった。



樹珠愛がついていくと近くの部屋の前で義道が止まった。

「ここは、翠さんの部屋だ。今度から本家に来たときの部屋にするとよい。」

引き戸を開けると以外にも洋室で部屋にはグランドピアノが置かれていて、

片隅に勉強机と椅子。ソファーが置かれていた。

義道がその部屋の引き戸を開けると奥には和室が広がっている。。

義道はそこの引き戸を開けると大きな和箪笥があった。

「これはね。宗輔が翠さんに買ったけれど持っていけなかった着物なんだ。

 樹珠愛、着てくれないかね?」

樹珠愛は小さく頷いた。


先ほどのピアノの部屋に戻ると樹珠愛は義道に聞いた。

「このピアノは調律なさっているのですか?」

「ああ、定期的にしてもらっているよ。このピアノはね。翠さんがいなくなった後も

 宗輔が奏でていたから。」義道は目を閉じながら言った。

「弾いてよろしいですか?」

義道は驚いたように樹珠愛を見て言った。

「弾けるのかね?」

「ええ。お母様やおじいさまほどではありませんが・・・。

 もし、よろしければ義道おじいさまの好きな曲を。」

そう言いながらピアノの蓋を開ける。

「メンデルスゾーン。狩の歌。」

義道はそう言ってソファーに座った。

樹珠愛は、目を閉じて精神を集中してから目を開けてにっこり笑って

鍵盤に手をおいた。

狩りの角笛のような曲がはじまり、樹珠愛の手が鍵盤を踊る。

義道の頬を一筋の涙がつたった。


優しい包み込む旋律。

それは、義道の愛した男 東条宗輔の音色にそっくりだった。

 
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