君と僕らの三重奏

       第4章 本家 −2−

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「そんなに緊張するな。」

本家からの迎えの車の中で和道は樹珠愛に言った。

「何でわかるの?」

表面上は樹珠愛は完璧だ。だから、少なからず緊張しているのを

何で悟られたのかすごく不思議だった。

「手・・・お前の手が冷たい。」

和道は、低い声でそう言った。

一応、運転手に聞こえないようにしているらしい。

「うん・・和道も緊張しているね・・。」

樹珠愛の手をそっと握る和道の手も指先が冷たかった。



本家は、樹珠愛が今まで見たこともない和風の邸だった。

和道の案内で広い玄関で草履を脱ぐ。

和道は脱いだ草履を優雅な物腰でそろえる樹珠愛をみて

そういうマナーも覚えているのだと密かに感心した。

2人は邸の使用人に案内され長い廊下を抜け、

広い和室に通された。



和道に続き部屋に入ると、和服姿の隆道とその横に隆道より少し

若い男とそして奥に70歳くらいの威厳のある男が座っていた。

「まあ、樹珠愛ちゃん、すごい綺麗でお花のようだわ。」

隆道が嬉しそうに言った。すっかり素を曝け出している。

和道は挨拶だけして席に座った。樹珠愛も席に座る前に、

「本日はお招き戴きましてありがとうございます。

 わたくし、樹珠愛・K・マクスウェルと申します。

 どうか、よろしくお願いいたします。」

と座布団の横に正座をして挨拶をした。



「座りなさい。ずっと外国暮らしだったと聞いておったが

 日本の作法も知っているのだな。」と威厳のある男が言った。

樹珠愛がにっこり微笑んで座布団に座ると隆道が軽い調子で言った。

「じゃあ、私が皆を紹介するわね。

 まず、今樹珠愛ちゃんに声をかけられたのが、私の父。

 東条義道。翠ちゃんのお父さんの伴侶だった人よ。」



「私の名前をつけてくれたおじいさま?」樹珠愛が首をかしげて言った。

「翠に聞いたのかね?」義道が震える声で聞いた。

樹珠愛は、にっこりと頷いて言った。

「おじいさま。素敵な名前をありがとうございました。」

「お前の名前は、宗輔・・お前のおじいさまと一緒に考えたのだよ。

 外国の学校で苛められないように日本の名前だけど外国の名前のような

 名前に。樹珠愛の樹は月桂樹の樹、珠は珠玉の珠、愛で無理に”あ”と読ませたが

 愛は名前の通り愛、皆に愛される珠玉のような女性になり栄光の道を歩いて

 欲しいと言う願いでつけた。」

「そうなのですか?私、今までよりもっと自分の名前が好きになれそうです。」

と樹珠愛が言った。



「ああ、お前の名は宗輔がいたからこそ考えられた名前だ。

 私は、隆道も和道も名をつけたがお前の名ほどロマンチックにはならなかった。

 もっとも和道は宗輔がいたからこそ考えることができた名だがな。」

「私の名も考えたのはお父様だったのですか?」隆道は驚いたように言った。

「ああ。隆道はいろいろな意味で東条の家を隆盛して欲しいと願い、

 和道は、和を以て貴しと為す。から人と親しみ合い調和することを大切に

 する人間になってもらいたくてつけた。」

「そんなの聞いたの初めてです。」和道はそう呟いて視線を落とした。



隆道も驚いたように空を見ていた。こちらも名の由来をはじめて聞いたらしい。

「私は、隆道の為にある名だと思いますよ。今伺って、隆道になるため隆道は生まれて来たと存じます。

 そして、和道様のお名前も素敵なお名前ですね。もちろん、樹珠愛様も。」

そう微笑みながら言ったのは、隆道の隣に座っている男性だった。

樹珠愛は、その人の声を聞くと固まったようにまじまじとその男性を見つめた。


 
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