君と僕らの三重奏

       第4章 本家 −1−

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朝、樹珠愛の元に和道の父、隆道から電話があった。

「樹珠愛ちゃん?本家へおいでなさい。紹介したい人がいるのよ。

 樹珠愛ちゃんの合格のお祝いも兼ねて和道も連れていらっしゃい。」

和道が横で嫌そうな顔をした。

「本家かあ。」

「和道様。」西條がたしなめるように言った。

樹珠愛が不思議そうな顔をしたので和道がしかたなく言った。


「本家に行くと父の伴侶がいるんだ。」

瞬間的にそれは男だと樹珠愛は悟った。

「そう?それで、和道は何が嫌なの?」

「小さな時、俺のことを見てくれる人はいなかった。

 俺は金銭的には恵まれていたけど、父は俺のことを見てくれなかった。

 龍哉がはじめて俺と向かいあった人なんだ。」

「いいじゃない?そんなお父様だったから龍哉さんと愛し合うことできたのじゃない?」

樹珠愛がさらっと言った。

「和道・・。今が幸せならいいじゃない。そして、お父様が生きているだけでいいじゃない。」

和道ははっとしたように樹珠愛の顔を見た。

「言ってやりなさいよ。小さな時寂しかった。って。抱きしめてほしかったって。」

「樹珠愛様・・。」西條がたしなめるように言った。

和道のつらさを西條は知っていたからだ。

「絶対、隆道さんもその恋人さんも、和道のこと負い目に思っているって。

 だから、そう言ってやりなさいよ。でも、今は幸せだって。そのおかげで

 龍哉さんに会ったから、後は自分たちの為に幸せになればいいって言いなさいよ。」

樹珠愛の目から涙が流れた。

「私なんて・・言いたくても・・もう・・誰もいないんだから・・・。」





西條が樹珠愛をふわっと後ろから抱きしめた。

「なんで、お母様を守れなかったの?なんで、あの人と結婚したの?

 責めたくても、もう、責めることすらできないんだから。

 それでも、今は責めないって決めたの。責めることは、キースと慎吾との

 出会いも否定することになるんだから。それにカズと龍哉さんとも一緒に

 暮らすことを否定することになるんだから。」

樹珠愛は肩を震わせて泣いた。

「樹珠愛・・・。」和道は驚いたように樹珠愛を見つめた。

樹珠愛の口からそんな言葉が出るとは思わなかった。

そして和道は前から樹珠愛に抱きついてきた。



「ごめん・・俺甘えてたよ・・ごめん・・樹珠愛・・。」

和道も涙声だった。

西條は、大きな腕で和道も抱き寄せ交互に2人の頭を黙って撫でてくれた。

2人落ち着くと罰が悪そうに顔を見合わせて微笑んだ。



西條はほっとした様子で会社に行った。西條は今日は一緒ではないそうだ。

和道は、「樹珠愛を綺麗にしなくちゃ。」と言うと、携帯で栞のところに電話をかけ

樹珠愛を連れ出した。


樹珠愛が栞の所に行くと栞は樹珠愛を自分の車に押し込むと大きな呉服屋に向かった。

呉服屋に入ると40歳くらいの和服姿の男が出てきて言った。

「栞?ついに鞍替えしたのか?」

栞はそのままその男の側に行くとバコンと頭を叩いた。

「栞・・何もグーでなぐることないだろう?」

「馬鹿兄貴。口を動かさずにさっさとこのお嬢さんに合う和服を並べろ。」

「あ・・・お兄さん・・うそ。似てない・・。」樹珠愛がそう呟くと栞は大きな溜息をつき

栞の兄は苦笑いしながら

「俺は、父親似で栞は母似だからね。」と言った。


栞の兄の案内で店の奥に行くと樹珠愛が呟くように言った。

「3月なら、桜の柄かしら?」それを聞いて栞は驚いたように言う。

「樹珠愛ちゃん?着物着たことあるの?」

「うん。SHINに習ったよ。着付けも茶道も華道も香道も・・・。」

「あの人そんなことできたんだ。」栞が驚いたように言った。

「急だから、仕立てたものになるけれど・・。」畳に着物が並ぶ。

結局、桜の柄の着物とそれに合わせた帯、小物を持ちまた、栞の店に戻った。

それから、和装用の下着にバスローブを羽織ると

長い髪をアップにされピンでとめられる。

栞の顔は真剣でいつもの軽い口調もでない。

髪型が決まると今度はメイクだ。

念入りなメイクの割には自然な感じが強調されている。

その後は助手の人が呼ばれ着付けがされた。

楚々とした極薄く桃色にいろづく清らかな地色に背景には重なる雲取とかすみが

見え、桜が散りばめられている。金の刺繍も上品でいやみがない。

帯も白銀の帯で刺繍が美しい。

栞は、支度が終わると満足そうに樹珠愛をながめると、

カメラを取り出し何枚か写した。

少したつと、和道が入ってきた。

オーダーメイドのグレーのスーツを着ている。

和道は、眩しそうに樹珠愛の姿を見て言った。

「樹珠愛、すごい綺麗だ。」

和道はそう言いながら樹珠愛に手を差し出した。

樹珠愛はにっこりと微笑みその手に自分の手を置く。

「栞さんありがとう。」

「素敵なお食事会になるといいね。いってらっしゃい。

 樹珠愛ちゃん、笑顔だよ。」

栞はそう言ってドアを開けた。

樹珠愛が微笑みながら頷く完璧なセレブの微笑だ。和道のエスコートは完璧だ。

綺麗に微笑みを浮かべながら話をしている2人に店のスタッフもほうと溜息をつく。

「ああ見ているとカップルにしか見えないな。

 西條さん、妬かないかな・・?

 しかし、樹珠愛ちゃん、堂々としたお嬢様ぶりだ。」

栞の独り言を聞く者はいなかった。


 
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