君と僕らの三重奏

       第3章 広がる出会い −5−

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「和道様、西條さんのお土産なんだった?」

パーティに出席するために美容室を訪れた和道に栞が聞いた。

和道は複雑そうな顔をして携帯のストラップをみせると

栞は大声で笑った。

「本当に?これを西條さんが?」

和道は少し赤くなりながら頷いた。

それは、北海道のまりもをモチーフにしたきもかわいいストラップだった。

「樹珠愛ちゃんにも?」

「ああ。樹珠愛もつけてるよ。これのひぐまきぐるみ版。」

和道はそう言いながら椅子に腰掛ける。

実際、樹珠愛は嬉しくて龍哉の首に抱きついたくらいなのだ。

「なんでも、キーポイントは、若い人NO.1の売れいきストラップだったそうだけど。」

栞はそのストラップのマスコットの股間を指ではじきながら言った。

「確かに、目立つよね。それ。強烈。ひょっとして西條さん並み?」

「いや・・・龍哉はもっと・・。」ここで鏡越しに栞と目が合い和道は真っ赤になった。

栞の大きな笑い声が部屋中にあふれた。




午後から会社に出た樹珠愛は橘に送られて帰ろうとエレベータを待っていた。

エレベータが来て2人が乗りこむとある階で人がたくさん乗ってきた。

橘はその人達のただならぬ様子に事情を聞くと社員が本社の目の前で事故にあったらしいと

いうことだった。それを聞いた樹珠愛は橘に心配だから一緒に行くと言い、

橘には医務室から人を呼ぶように言うと、他の人と共に走り出した。

目の前の道路は結構な惨状で他の人は立ち尽くした。

会社帰り5人で呑みに行こうと歩いていた社員の中に車が突っ込んできてひいたらしい。



そこら中に血が飛び散っている。

まだ、救急車も来ていない。

樹珠愛は周りを見て一番重症で意識を失っている人のそばに走っていくと

心臓マッサージをはじめた。



その時には会社の医療ルームの看護婦も来て他の人の処置をはじめた。

樹珠愛のベージュの服に血がにじみつくのも関わらずに

処置をしている。「よし。動いた。」樹珠愛が言うのと同時に救急車がついた。

救急隊員に橘は「社員なので東条病院に運んで下さい。もう連絡しているので。」と言った。

東条病院は、東条家の分家が経営する病院だ。

「私は医師です。付き添います。」樹珠愛はそう言うと一緒に救急車に乗る。

橘は、もう一度携帯を出すと病院に電話をかけた。

病院に着くと、何人もの看護士が出てきた。

樹珠愛が救急車を降りると、大柄の男が

「人手不足なんだ。緊急オペにつきあってくれ。」と樹珠愛に言う。

樹珠愛は、その男と一緒に病院に入って行った。




西條は、パーティの最中に会社から事故の連絡が入っていた。

社員が5名も会社前で事故にあったということで和道と共に本社に向かう。

本社に入ると橘が事件の詳細と家族への対応について報告をした。

「5人中、2人が重症で、東条病院で緊急オペをしております。

 外科部長の東条裕也氏が執刀されている模様です。後、樹珠愛様も

 社員に付き添われて病院に行っております。樹珠愛様の服は血だらけだったので

 着替え持って行かれたほうがよろしいと思います。」

西條は驚いたように言った。

「樹珠愛様は病院で待機しているのか?」

「いえ。病院に確認したところオペ室に入っているそうです。」

「我々も着替えを持ってすぐ病院に向かう。」西條はそう言い和道と共に

地下駐車場に向かった。




深夜の東条病院はざわめいていた。

すでにオペは終わり、患者はICUに入れられているが一命は取りとめたらしい。

しかし、看護士は決まり悪そうに言った。

「実はですね。あの事故の後、首都高でも事故がありましてね。

 今もあの女医さんはオペしております。」

西條は、すぐに家族のところに行き、和道は廊下の椅子に座って樹珠愛を待つことにした。





東条裕也は、樹珠愛の横顔を見て内心の驚きを隠せなかった。

技術の高さ、鮮やかなメス使い、今日運ばれてきた患者は自分では助けられなかった者もいた。

特に最初の患者は絶望的だった。しかし、冷静なサポートで何とか一命を取りとめた。

純粋にこの女に執刀させたいと裕也は考え、今樹珠愛が目の前で執刀している。

この鮮やかな手つきは昔一回だけオペを見たことがある医師にそっくりだった。

それは20世紀最期の奇跡と言われた天才外科医キース・バートン。

(かなり若いのだろうな。)

まだあどけない樹珠愛の横顔を見ながら裕也は信じられないように

首を振った。




「あっ・・俺?寝てた?」和道は目をこすりながら言った。

肩に西條の上着がかかっている。

見ると、手術室のランプは消えている。

「先ほど終わったようです。」西條はそちらを見ながら言った。




白衣を着た東条裕也が出てきて西條の前に来た。

「あの女医さんから、名前は出さないでと頼まれたから。出さないで今から会見に言ってくる。」

「樹珠愛様は?」

「女医さんなら俺の部屋にいるぜ。血だらけの服だったから着替え持っていったほうがいいぜ。」

そう言って裕也は廊下の向こうへ消えた。

西條と和道は言われた部屋に入っていった。


「ああ。着替えありがとう。」樹珠愛はそう言いながら着替えを受け取ると

パーテーションの向こうで着替えて、また2人のところへ戻った。



西條は、戻って来た樹珠愛を抱きしめ、和道はその冷たい手を掴んで自分の頬に当てた。

不思議そうに樹珠愛は西條を見つめると和道が言った。

「手・・冷たくて震えている・・。」

「少し疲れたからかな。」



西條と和道はソファーの真ん中に樹珠愛を座らせると頭を撫で、肩を抱き

安心させるようにした、樹珠愛があくびをすると和道が言った。

「俺の肩にもたれて休めよ。疲れたろう?」

樹珠愛はおとなしく和道の肩に頭をのせると目を閉じた。



しばらくして、東条裕也が部屋に戻ってきた。

着替えた樹珠愛をみて西條に説明をするように言う。

西條が簡単に樹珠愛のことを説明すると裕也は頷きながら言った。

「このお嬢ちゃんが15歳なのは驚きだが、キースが師なのはわかる。

 手術のしかたがそっくりだ。」

「見たことあるのか?裕也?」西條と裕也は友達なのだ。

「ああ。アメリカに留学したとき一度だけだな。

 しかし、目に残っているぜ。そして今日もな・・。」




「裕也様。連れて帰ってよろしいですか?」西條が言うと裕也は頷きながら言った。

「いいぜ。助かったのはこっちだ。お陰で今日は死亡診断書書かなくて済んだんだからな。」

西條が車を取りに駐車場に行くと裕也は煙草をふかしながら言った。

「坊や。その嬢ちゃん守るなら覚悟が必要だぜ。

 本家のおやっさんがどう考えているのかはわからないが・・。」

和道はその視線をそらさなかった。

「ああ。わかっているさ。」和道はそう言って樹珠愛をだきあげ部屋を出た。

思った以上に軽い。眠っている樹珠愛に囁く。

「樹珠愛、ゆっくりおやすみ。今夜も3人で眠ろう。」


 
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