君と僕らの三重奏

       第3章 広がる出会い −4−

本文へジャンプ



「和道様。樹珠愛様。私は、今日札幌に出張なので

 帰りは明日になります。」

朝ごはんの時西條がそう言った。

和道は少し不機嫌そうにああと答えた。

西條はそれを知っていて出かけるときはその日の朝に言うようになったのだ。

「龍哉さん、気をつけてね。札幌ってどんなとこ?」

「北海道で一番大きな都市ですよ。とても綺麗な街です。」

「そうなの?じゃあ、和道と仲良くお留守番しているから

 お土産買ってきてねぇ。」

「お・・土産ですか?」西條は驚いたように言った。

和道も驚いたように樹珠愛を見つめている。

「うん。和道の分も・・空港のお店でもいいから。」

「そうですね。忙しいので買えるとしたら空港だけですね。」

「難しく考えないで。お土産はなあんでもいいんだよ。

 ポイントは龍哉さんが選ぶということなんだから。」

「わかりました。」西條は神妙な顔で言った。



「あと・・・それと。」

樹珠愛が顔を突き出す。

「なんですか?」

「明日の分までのキス。え〜と、お帰りなさいと

 おやすみなさいとおはようといってらっしゃいだからしめて

 4回。」

西條は、樹珠愛の頬にキスをすると樹珠愛も4回頬にキスを返す。

「龍哉さん、飛行機何時?」

「11時ですが・・。」

「わかった。私会社に顔出して直行するって言っとくね。

 それで、和道は授業午後からだから。行ってくるねぇ。」



「お・・・い?」和道が驚いたように言った時にはすでに

樹珠愛は玄関から出ていったらしい。

「気を使わせましたね。折角の心遣いですし・・。」

西條は意地悪そうに微笑んで和道を抱えた。

「おおお・・・い・・・たつ・・・や・・・。」

西條の口が和道の唇を塞いでいた。







「え〜?西條さんにお土産頼んだぁ?」

「うん。頼んだよ。何か変?」

「樹珠愛ちゃん?あの2人と暮らしていて緊張しない?」

「ううん。おかしなこと言うね栞さん。居心地いいよ。あの2人のそば。」

「やっぱり樹珠愛ちゃんってすごいよね。

 俺でも西條さんと一緒だと話すことないもん。」

「あ〜。会社での雰囲気ね。ここにしわ寄せて「いけませんね。この企画は。」

 なんてジトジト言ってるもんね。」樹珠愛は自分の眉間にしわを寄せて言った。

「それ?西條さん?似てね〜。」栞が笑いながら、樹珠愛の顔のマッサージをする。

「そう?でも空港の売店で買い物する西條さん、可愛いよね。」

(可愛いと言えるのは樹珠愛ちゃんだけだよ。)栞は引き攣りぎみにあははと笑った。





樹珠愛のエステが終わったころに「樹珠愛様、お迎えにあがりました。」と

橘の声が聞こえた。栞が驚いたように樹珠愛をみるとしれっとした顔で

「迎え頼んだの。」と樹珠愛が言った。

部屋に入った橘と栞はどこか他人行儀な感じだ。

樹珠愛はいらいらしながら言った。

「栞さん、普通会いたかったよ。とか言って恋人を抱きしめてキスするものでしょ?

 毎日しているくせに。もう、私トイレ行く!」

と宣言して部屋を出て行った。

「じゃあ、お言葉に甘えて。」と栞は言うと橘の唇を吸った。

2人を見て部屋に戻ってきた樹珠愛は嬉しそうに笑った。

橘が顔を真っ赤にさせている。

「樹珠愛ちゃん、気を使わせたね。」

「そんなことないよ。栞さん、ありがとう。橘さん、本社にお願いします。」

「しかし、晃も樹珠愛ちゃんには甘々だよね。」

「車で送迎しなければ、樹珠愛様どこにいるのかわかりません。

 だから、樹珠愛様いつでもお電話ください。」

橘に言われて樹珠愛は恥ずかしそうに頷いた。

色々な意味で天才と言われる樹珠愛の弱点が放浪癖。

歩いていて興味があるとついていく癖があるらしい。

2人が出て行くと栞はジャケットを着て伸びをした。

「さあ、仕事頑張るか。」






夕方、家に戻った樹珠愛を迎えたのはソファーにへばりついた和道だった。

「随分、疲れているみたいだね?」

樹珠愛がグラスにミネラルウォーターを注ぎ和道に渡す。

「誰のせいだよ?結局講義休んだぜ。」和道が恨めしそうに樹珠愛を見あげる。

「ひょっとして私のせい?」

和道が決まり悪そうに頷く。

「ごめん。ごめん。今日は龍哉さんいないからできることしない?」

にっと笑って樹珠愛は最新のテレビゲーム機を特大テレビに繋ぐ。

「ああ・・確かにいるとできないな。何か、いいなこの雰囲気。」

和道も嬉しそうに呟く。何だかんだと言っても和道も大学生。

将来父の後を継ぐ高い志はあるがゲームもやりたい年頃だ。

さすがに西條にゲームの相手は頼めないからもっぱらやりたいときは

友達の家に行くのだ。


2人は、ソファーを倒してベッドにすると腹ばいになってコントロールを手に取った。

テレビにゲームの画面が写る。人気が高い格ゲーだ。

「あれ?これ・・新しいの出たっけ?」最新ソフトを集めている友達の家にもない。

「このゲーム私のお小遣い稼ぎなの。だからこれは試作品最終ヴァージョン。」

樹珠愛はそう言いながら、コントローラを操る。

「げっ。樹珠愛強そうだな。」

「そんなことないよ〜」樹珠愛はへらっと笑った。

2人でわいわい盛りあがっていると12時を過ぎていた。

「ありがとう。良いデータ取れたよ。」樹珠愛はゲームを片付けながら言う。

和道もベッドをソファーに戻すとゲームを片付けてきた樹珠愛の手を引いて

寝室のベッドにもぐりこんだ。

「龍哉さんいないと広いね。それに片側寒いや。」樹珠愛が呟く。

和道が樹珠愛を引き寄せて抱きしめて

「こうすると暖かいだろう?」と言うと

「和道も暖かい?」と樹珠愛が聞く。

「ああ。ゆっくり寝れそうだ。おやすみ樹珠愛。」

和道は樹珠愛のおでこにキスをした。




しばらくすると樹珠愛の小さな寝息が聞こえる。

「ありがとう。樹珠愛。」



ゲームも朝のキスも龍哉にお土産をねだったことも樹珠愛の優しさだと和道は

知っていた。いつもひとりぼっちだった夜が暖かい。

(龍哉・・何買って来てくれるかな・・・)

空港の売店で大きな体で鋭い目の男が自分たちの土産を物色する姿を想像すると

何だかおかしくて、和道はくすっと笑った。


 
   BACK  NEXT 

 Copyright(c) 2007-2010 Jua Kagami all rights reserved.