君と僕らの三重奏

       第3章 広がる出会い −2−

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「ところで、樹珠愛。財布だせ。」

「どうしたの?カズ?」不思議そうに樹珠愛は財布を出すと和道に渡す。

和道は、樹珠愛の財布の札入れを見ると溜息をついた。

「樹珠愛、いつも財布にこのくらい入っているのか?」

「うん。念の為に入れているよ。」

「女子高生が100万財布に入れるか?俺だって10万くらいしか持ってないぞ。」

「ちょ・・・ちょっと待て。この子女子高生?」驚いたように栞が言う。

「ああ。4月からな。お前も関係者なのだから詳しいことは橘に聞け。」和道が言う。





「だめだよ。その年で、その格好は。あ〜〜。時間がもったいない。

 樹珠愛ちゃん、こっちに座って。和道様、どのようにしあげたい?」

栞は立ちあがってスーツのジャケットを脱いだ。

「オールマイティーで。」

「あ〜。そういうこと。はい。樹珠愛ちゃんシャンプーするからね。

 和道さん。どうせ。ここにいても暇だから時間つぶしてきな。」

と栞は言うと、忙しそうに動きはじめた。

和道も心得たもので、「じゃあ、2時間くらい時間つぶしてくるよ。」

と言って部屋を出ていった。

栞は樹珠愛の髪を洗いながら説教を始めた。

「樹珠愛ちゃん、女捨ててないか?素材いいんだからもう少し

 髪の手入れしろよ。」

「だって手入れの仕方わからないんだもん。」

「週に一回は来い。ついでに顔やネイルもやってやる。」

「栞さんって美容師さんなの?」

「う〜ん初めはそうだったんだけど、あれもこれもと思っているうちに

 この業界のことは何でもできるようになったんだ。」

「そうなんだ。すごいね。」

「俺には、独立した時絶対この人に内装をプロデュースして欲しいって人いたんだよ。

 それで、もう熱烈にアタックしたおかげでその人内装やってくれたんだ。

 この部屋なんかより小さな店だったけどね。

 その人と初めて会った時、外人が来ると思ってたら日本人でさ。

 内装をやるはずなのに俺にすごく仕事のこと聞いてくるんだよ。

 女の子がパーティに行くにはどういう髪型が可愛いのかってね。」

「それで?」

「俺は不思議になって聞いたんだ。すると、その人自分には大切な娘が

 いるんだけど、今住んでいるところは田舎で娘は奥さんに似てずっと

 本を読んだり議論するのが好きでお洒落をしない。だから、自分の好みに

 全部染めて可愛い娘にしたいって言ったんだ。その時俺は、ああファッションは

 髪だけじゃないって。自分はこの人が娘さんをお洒落にしたいように

 一人の人をいろいろな角度から綺麗にしていきたいと思ったんだ。

 まあ、あまり妥協したくない方だったからあれもこれもと思っているうちに

 商売が大きくなっちゃってね。優秀なスタッフも育ったから6年前に

 また無理言っちゃってこの部屋の内装お願いしたんだ。」

「そっかあ。」

「この部屋、その時その人が住んでいたパリの部屋がモチーフなんだって。」

嬉しそうに栞が言った。

(ああ、そういうこと。どおりでこの部屋に懐かしさを感じるんだ・・。)

「その人の名前は、SHIN?」樹珠愛が言う。

「知ってるの?」栞が鏡越しに聞く。



樹珠愛は頷きながら言った。

「うん。とても良く知っている。栞さんこの部屋大切にしてね。

 もうSHINはいないから。」

「何で知ってるの?」

「その娘って私のことだよ。SHINは死んだんだ。

 それでも、この部屋は生きているんだね。

 ここには慎吾いるんだね。」

樹珠愛は切なそうな表情を浮かべた。





あれは。遠い遠い昔の日の思い出。

「しんご〜♪おみやげ〜は?」

「ああ。あるよ。ほら」

「おみやげってふく?」

「クスクス。それだけじゃないよ。

 樹珠愛ほらここにお座り。」


「ほ〜らできた。」

「あ〜〜!!かみ変わってる!!

 しんごの手ってまほうだね。」

「樹珠愛。食べちゃいたいくらいキュートだよ。」

「キースがたべたいのしんごでしょ?」

笑い声が聞こえる。





我に返ると栞が樹珠愛の頭を優しく撫でている。

そして、すごく優しい顔で樹珠愛をみつめている。


「そうか、樹珠愛ちゃんが俺の原点なんだね。

 人間のつながりって不思議なものだね。

 きっとSHINさんがお洒落じゃない樹珠愛ちゃんを

 心配して会わせてくれたんだね。」


樹珠愛は泣きそうな顔をして頷いた。

 
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