君と僕らの三重奏

       第3章 広がる出会い −1−

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「樹珠愛、試験どうだった?」

樹珠愛が西條とマンションに戻った時、

和道が玄関のところに出てきて言った。

「えっ。簡単だと思ったけど。」

「それは、樹珠愛様だからでしょう?」

「そうなのかな?」不思議そうな顔をする。



樹珠愛は、和道の通う大学の付属高校に通うことに決め、

今日はその入試日だった。

付属中学校からの持ちあがりがほとんどで高校からの外部生は

少ないので、入試を受ける樹珠愛より和道の方がドキドキしている。


当の樹珠愛は中学の参考書を一度ぱらっと見ただけでそれ以上の

受験勉強をしているのを見たことはない。

西條が樹珠愛に聞くと苦笑しながら全部覚えたと言った。

樹珠愛の頭には参考書がコピーのように頭に焼き付いているらしい。




「じゃあ、樹珠愛、明日は俺につきあえ。」

和道が夕食の南瓜の煮物を食べながら言った。

「どこに?」

「まずは、美容室だろう?それに買い物。」

「え〜。間に合ってるよ。」

「だめだめ。樹珠愛は女の子としての楽しみを知らなすぎる。」

「そうですね。確かに今はあんまりですね。」

出会った時は樹珠愛がお洒落だと思っていた和道と西條だったが

それは、単純に元が良いだけだと気づいたのは一緒に暮らし始めてすぐだった。

髪は、いつも後ろに1本に縛っているかそのままにしている。

たまたまそのままでも髪が綺麗だから得をしている。

本を読むときや勉強する時かける眼鏡は黒縁おやじ眼鏡だし

服と言えば、Tシャツかパーカーにジーンズか、

仕事用にスーツか、ブラウスにタイトスカートかどれかだ。

しかも、面倒くさいらしく色違いの同じ型のスーツが何着もある。

眼鏡をかけた姿だと年増のお局チックにすら見える。

「なんか・・嫌な予感するなあ。」

樹珠愛はそう言いながらルームウェアに着替えに自分の部屋に向かった。




次の日、午前中授業だという和道と樹珠愛は最寄り駅のスタバで待ち合わせをした。

和道は、黒のベースボールキャップ。レザーライダースジャケット。

コゲ茶のストレートコットンパンツ。スタッズベルト。という格好だ。


「お前・・ひょっとして本社行った?」和道は樹珠愛のベージュのスーツを見て言った。

「うん。その代わり夜は行かなくていくなったよ。」


(お前は仕事中毒の管理職かよ。)という言葉を和道は飲みこんだ。




「さあ、行くぞ。」和道は立ちあがって言った。

和道が連れてきたのは、あるビルのの美容室。

お洒落なモノトーンの空間だ。樹珠愛にとってこのような場所は初めてだ。

思わずきょろきょろと周りを見る。



「和道様。いらっしゃいませ。今日はどうなさいました?」

恐ろしいほど美形の男の人が出てきて言う。

背は、180センチくらいでモデルのような容姿だ。

和道が微笑みながら言った。

「実は、今日は俺でなくて。こいつを何とかしてくれ。」

和道が後ろできょろきょろしている樹珠愛を自分の前に押し出す。



男の人は樹珠愛の頭の先からつま先まで見て言った。

「ふーーん。まあここにいるのもなんだから、個室に行くよ。和道様も。」

そう言うと踵を返す。

「和道・・とって食われそう。」樹珠愛が小さな声で言う。

「大丈夫。ちゃんと恋人いるからそれはない。」和道も低い声で答える。





案内された部屋は結構広くモノトーンのさっきの空間とは違う。

床はフローリングでグリーンが所々に置いてあり上品ながらも座り心地の良い

ソファーとローテーブルと低めのスツールが置かれている。

よく見ると、部屋の向こう側には美容室らしい鏡や椅子もあるが空間がゆったり

していて落ち着くことができる。

和道と樹珠愛がソファーに座ると先ほどの男がコーヒーを目の前に置いて

和道に言った。



「和道さん。どういうことなのですか?私はもう経営の方にまわったので

 担当は数人しか持たないようにしているのですが・・・。」

「ああ。わかっている。でも栞さん言ってじゃないか?

 本当は、女の人も弄ってみたいって。」

「それは・・・。」

「じゃあ、俺が断言してやるよ。こいつは栞さんのこと一人の人間として

 見つめる奴だし、お前の恋人も嫉妬はしない。むしろ喜ばれるはずだ。」

「はあ?どういうことですか?」

「極秘だけど、こいつがお前の恋人の上司。」

男は信じられないような顔をして樹珠愛を見つめた。



一方、樹珠愛はああ。と思い出したように首を振りながら言った。

「ああ、この人が栞(しおり)さん?」

「え〜お前。知ってるのか?」

「うん。知ってるよ。橘さんの恋人の真崎栞(まさき しおり)さんだ。

 どっかでみたことあると思ったら、橘さんに写真見せてもらったんだ。

 写真と雰囲気が違ったからすぐわからなかったんだ。」

「ちょっと待って。晃が写真見せた?」驚いたように真崎がいった。

「うん。見せてくれたよ。橘さんに恋人いないの?って聞いたんだ。

 そしたら、パートナーがいるって教えてくれて、写真見せて見せてくれないなら

 見に行くって駄々こねたら見せてくれたんだ。惚れちゃだめだよって言ってね。」


(晃・・・何で唐突にカミングアウトしてるんだ?)

真崎はこめかみに手をやって思った。


「そうなのかよ?あの橘がね〜。」和道が面白そうに呟く。

「うん!でも、言ってすっきりしたのか最近は橘さんにあてられています。」

「あてられる?」

「うん。朝ベッドまでコーヒーいれて持ってきておはようのキスされると幸せ感じるとか・・。」

(晃・・・そんなことまで言ってたのか・・恥ずかしいぞ)


「あっ。でも和道の恋人もいつもそんな話するよ。」

暢気に言う樹珠愛に

「おおお・・れのことはいい。」和道は真っ赤になって言った。



真崎は和道の恋人が西條なのを知っている数少ない1人だ。

「え〜?西條さんのこと知ってるの?」驚いたように真崎が言った。

「ああ。とにかくこいつは大丈夫だ。」ぼそりと和道が言った。



「俺を担当にするなら、高いよ。」と真崎が挑戦的に言うと、

樹珠愛はおもむろにビジネスバックから封筒を取り出し和道に渡した。

「何?これ?」和道が不思議そうに言う。

「今日、和道が張り切って買い物につれていくと言ってくれたから

 お金おろしてきたの。今、高いって聞いたけど間に合うかな?」

和道は、A4の封筒を開けて中を覗いて固まった。

「じゅ・・・樹珠愛・・・これは・・・?」

「え〜〜足りなかったら、一応財布にも幾らかあるよ。

 じゃあ、栞さんにそれ払って。」樹珠愛はのんびり答える。

「樹珠愛、お前は栞さんのこと知らないだろう?」

「うん。和道が信頼しているようだし、橘さんのパートナーだしね。

 栞さんは少なくても橘さんを裏切らないはずだよ。」

和道は真崎に封筒を渡して言った。

「・・・だそうだ。」

真崎は和道と同じく封筒を見て固まった。

封筒には、2千万の札束が入っていた。

「和道さん、この方には負けました。」

真崎がお辞儀をしながら言った。

 
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