君と僕らの三重奏

       第2章 君の抱えるもの −5−

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西條は、そのまま樹珠愛を抱きかかえて自分たちの寝室に運ぶ。

和道はカーテンをひいて布団をめくり自分が先に入った。


西條はベッドの真ん中に樹珠愛を寝かせると樹珠愛は先にベッドに入った

和道の方に体をすり寄せる。西條がベッドに入ると

樹珠愛は今度は西條の方にすりよる。

いつも、3人で眠る時、無意識にする動作と同じだ。

しかしいつもは、それで安心して眠りにつくのに、今日は何度も

和道と西條がいるのを確かめるように寝返りをうつ。

まだ、嫌な夢をみているのだろうか?

眉間に皺がよっている。

西條は、樹珠愛が自分の方に寝返りを打ったときそっと自分の方へ樹珠愛を抱き寄せて言う。

「樹珠愛様、あなたを苦しめるものはどこにもいません。安心しておやすみなさい。」

そういいながら、母親が子供にするように樹珠愛の背中を優しくポンポンと叩いた。


その時、和道は軽く息をのんだ。

「和道様?」和道の表情に西條は眉を潜める。

和道は戸惑ったように、樹珠愛の少しめくれたシャツをめくると

声がでないように片手で口を覆って呆然と樹珠愛の背中を見つめた。

西條は樹珠愛の手を握りながら体を起こし樹珠愛の背中を見る。

「こ・・れは・・・。」

樹珠愛の小さな背中は傷だらけだった。

銃創らしい傷跡の他に手術のような跡が背中いっぱいに広がる。

銃創は映画で見るよりも生々しくて痛々しい。

傷跡のほうが多くて綺麗な肌のほうが少ないくらいだ。



和道は樹珠愛の背中をいたわるかのようにそっと撫でた。

「龍哉、俺たちは目をそむけてはいけないんだ。

 こいつ偉いよな。こんな小さな体で頑張ったんだものな。」

「そうですね。」

「なあ、龍哉。樹珠愛は3年もの間、こんな状態でも1人でいたんだな。」

「ええ。そうだと思います。」

「人の中で孤独よりも1人だけの孤独って辛いのだろうな。」

和道は樹珠愛のシャツを元に戻し樹珠愛の頭を撫でた。

西條は樹珠愛越しに和道の顔を見つめる。

「龍哉・・ありがとう。」

「どうしたのですか?」

「俺の孤独を救ってくれたのは龍哉だからな。

 いままで面と向って言ったことはなかったからな。」

「いいのですよ。私も和道様と一緒に過ごした日々は楽しいものでしたからね。」

「なあ。龍哉。」

「なんですか?」

「いままでの分、う〜〜んとこいつを甘やかしてやろう。

 何回も大丈夫だと言って抱きしめてやろう。」

「よろしいのですか?」

「何が?」

「ほら、つきあった頃、私が和道様のいないところで人に触れるのが嫌だとおっしゃったじゃないですか?」

「お・・お前、それを守っていたのか?」

「ええ。できる限りは・・。」

「こいつには妬かねーよ。むしろ、こいつが不安がるときいつでも抱きしめてやれよ。

 それより龍哉お前も妬くだろ?いいのか?」

「不思議と樹珠愛様には、妬きませんね。

 例えば出張の夜など、このベッドに2人で寝ていたとしても私は妬かないでしょう。

 むしろ、安心するかもしれない。」

「安心って?」

「1人で寂しい想いをしているのではと思わなくてすみますね。」

「そっか・・・。俺は家族ってよくわからない。親父もあんなだしな。

 でもこれからは、龍哉とこいつと3人で家族になろうと思っているんだ。

 いいか?龍哉。」

「私はよろしいですよ。」

「ああ、これからも頼むな。龍哉。」

「和道様、かしこまりました。」

和道はそう言いながら、寝返りを打った樹珠愛の頬の涙を

指で拭った。


樹珠愛は、2人の間で穏やかな顔をして眠っている。

どうやら、悪夢も去ったようだ。



そして、樹珠愛を見つめる2人もとても穏やかな目をしていた。

「ゆっくりおやすみ。樹珠愛」

・・・・いつかは、その悪夢からぬけだせますように・・・・

和道が頬にキスをする。


「樹珠愛様。良い夢を。」

・・・・貴女の未来が微笑みであふれますように・・・・

西條も樹珠愛の頬にキスをした。

2人はクスッと微笑み、どちらからともなく軽いキスを交わした。


 
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