君と僕らの三重奏

       第2章 君の抱えるもの −1−

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樹珠愛と一緒に住んで一週間がたった。

西條が夜マンションに戻ると和道が西條に言った。

「龍哉?樹珠愛に最後に会ったのはいつだ?」

「私は朝早く、夜遅いからですかね?かれこれ3日は会ってないですよ。」

「俺も、3日会ってない。部屋にいるのは確かなんだけど・・・。

 一昨日の朝、皆で朝ごはん食べてから会ってないし、食材も減ってない・・・」

「それは、心配ですね。」西條は、樹珠愛の部屋の前に来てノックをした。

「樹珠愛様?コーヒーでも如何ですか?」

「はあい。」小さな声が聞こえる。



声が返ってきて、安心した西條は、コーヒーメーカーの用意をして

着替えたが、樹珠愛の気配はない。

「大丈夫ですかね?」西條は心配そうに樹珠愛の部屋の方へ行く。

和道も心配して後をついてくる。今度は和道がノックして言う。

「樹珠愛?」

「はあい。」さっきと同じ返事だ。




西條が溜息をついて、「樹珠愛様入りますよ。」と言ってドアのノブをまわして

樹珠愛の部屋を開けた時、2人は固まった。


20畳ほどの部屋は、女の子らしいカーテンも無ければ、ベッドもない。

部屋中、パソコンのような機械ばかりでどこかの会社の一角みたいな感じである。

樹珠愛を探すと、何台もの画面を見ながらキーボードを操っていた。

西條は、部屋にずんずん入って行き肩にそっと手を置くと

樹珠愛は驚いたように顔をあげた。

「樹珠愛様、居間にいらしてください。」

「あっ。あと5分で行きます。」樹珠愛はかすれた声で言った。



西條は、キッチンに入ると冷蔵庫からミルクを出して小鍋で暖める。

樹珠愛がダイニングに入ってくるとテーブルにマグカップに入れた

ミルクを置いた。

「飲みなさい。」西條の口調はどこか怖い。

樹珠愛は黙ったまま両手でマグカップを持ちミルクを飲み始めた。

「樹珠愛様、今日は何日かわかっていますか?」

「21日」樹珠愛はためらわずに言う。

和道が横から言った。「今日は23日だろ?」




すると樹珠愛はきょとんとした顔で言った。

「うそ・・・。」

「うそではありませんよ。今日は23日です。」

「あ〜〜また、やっちゃった。」樹珠愛は髪をかきあげながら言った。

「ひょっとして、お前寝てないのかよ。」あきれたように和道が言う。

その時、西條がすっと目を細めた。





「樹珠愛様、睡眠薬を持ってきて出しなさい。」西條の口調は絶対だった。

「なんで・・・。」樹珠愛は驚いたように言う。

「知っているものは知っているのです。全部持っていらっしゃい。」

樹珠愛はすごすごと自分の部屋に戻ると薬の束を持ってきて

テーブルの上にあげた。



「樹珠愛様、これは体に悪いものなのでしょう?」西條がきつい調子でいった。

樹珠愛はびくっと目を落とす。

「わかっているけど・・眠れないから。頼ってしまうの。」

「じゃあ、体には悪いんだね。」和道が静かに言う。

「不眠症は昔からですか?」

樹珠愛がこくりと頷く。




「じゃあ、キースさんと一緒の時はどうしてたの。」

「基本的に近くに人がいると浅いけど寝れるの。

 だから、毎日夕食後は必ずソファーで横になっていたの。」

「それだけじゃ足りなかったですよね?」

樹珠愛は頷きながら言った。

「週に2回は3人で寝てたの。何でか知らないけれど抱きしめられると安心して眠れるの。

 でも、迷惑かけれないよ。」



「お前は、気を使いすぎだっちゅーの。」和道はそう言って純亜にでこピンをする。

「へっ。」樹珠愛が驚いたように顔をあげる。

「いいですか?樹珠愛様。あなたは、まだ15歳、もう少しで16歳なのですよ。

 そして、和道様も私も成人です。貴方を庇護しなくてはならない。」

「でも・・・。」

「そうです。貴方は収入もある。財産もある。

 学力だって恐らく、私や和道様よりも上でしょう。

 しかし、貴方の体はまだ成長期です。それは貴方自身が一番わかっているでしょう。

 それに、貴方自身自己管理ができないのは良くわかりました。」

ここで西條は一回息を吸った。

「まず、ウィークデーは本家から三食きっちり運んでもらいます。

 なので、朝食、夕食は必ず和道様や私と食べるように。

 もし、私達がいないときは別の者に運ばせます。

 そして、仕事ですが、はっきり申し上げて学校に通いながら

 1人で現状維持は難しいと思います。まだ、樹珠愛様の仕事の内容は

 存じあげませんが、どこか部屋を確保してそちらを仕事部屋に

 すると如何でしょうか。信頼がおける優秀なスタッフが必要なら

 私の方で手配いたします。そして、夕食後は以前のようにリビングの

 ソファーでお休みください。」



「そして、週に2回は一緒に寝るぞ。後、俺か龍哉が1人の時も一緒だ。

 どうせ、寝るだけしな。」

和道がそう続けた。

「迷惑じゃない?」樹珠愛は恐る恐る聞いた。

「迷惑じゃね〜よ。」和道が樹珠愛の頭をぐりぐり撫でる。

樹珠愛は不安そうに西條の顔を見る。

「迷惑じゃないですよ。私だって獣じゃないんですから毎日セックスしませんしね。」

と西條が言うと和道が真っ赤になった。

「とにかく、樹珠愛。寝るぞ。龍哉も早く来い。」

和道はそう言うと樹珠愛を寝室へ無理やり連れて行く。

西條は携帯でどこかに連絡すると寝室に入ると、樹珠愛は和道にすがりついて眠っていた。




西條もその横に滑り込むと樹珠愛が西條の方にもすり寄ってくる。

「なあ、龍哉。こんなにかっこいい男2人もいるのに、こいつ良く爆睡できるよな。」



和道が面白そうに樹珠愛の柔らかい頬をつついて言う。確かに・・。

自分の横でここまで眠れる女は樹珠愛が初めてだった。

 
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