君と僕らの三重奏

       第11章 血の繋がった弟 −4−

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「ジュリア・・・ここは寒い・・・

 早く・・・早く・・・・。」



「樹珠愛、樹珠愛・・・・。」

目を開けると後ろから西條がすっぽり樹珠愛を抱きしめ、

和道が優しく樹珠愛の髪を撫でた。

「私・・・?」

「うなされていたぞ。」



「思ったよりショックだったのかな・・・。」

樹珠愛はポツリと言った。

「うん?」

「もっとひどい死体いっぱい見ているのに

 こう頭に残るって言うか・・・。」


「樹珠愛様、それは当たり前のことだと思いますよ。」

西條が耳元で言った。

「えっ?」

「だって、樹珠愛様のお父様ですよ。

 樹珠愛様は覚えていらっしゃらないかもしれないけれど、

 お小さいとき、お父様はいっぱいの愛情をあなたにかけていらしたようですよ。」


「本当に?」樹珠愛は西條を振り返って言った。

「ああ。本当だ。樹珠愛。エドワードの手術の時、

 ハリーとジーンにお前が小さな時の話を聞いた。

 お前は、ディーンさんと碧さんにとても愛されていたそうだよ。」

「愛されていた?」

「ああ。いつも屋敷には温かい微笑があったそうだ。

 そして、その中心には樹珠愛がいた。」


樹珠愛は西條にすっぽり抱かれながら横になった。

和道も横になって樹珠愛の頭を撫でつづける。

「どこかにそんな記憶があるのかなあ。」

樹珠愛はポツリと言った。


「そんなに樹珠愛を愛していたディーンさんが

 樹珠愛を苦しめるはずはない。

 だから、ゆっくりとおやすみ。」

和道は、そう言いながら、子供にするように

樹珠愛の体をポンポンと叩くと樹珠愛は小さく「あったかい・・」と言うと

寝息をたて始めた。




次の日から、朝エドワードのところに顔を出してから

大学の研究室に通い、解剖の分析に関わる日が続いた。

和道と西條はいつも一緒にいてくれて、

大学のベンチに座って樹珠愛がでてくるのを待っていてくれる。



数日後の事だった。

フィリップに抱えられるように樹珠愛が出てきた。

顔色は真っ青で目には涙が溜まっている。

フィリップは、和道と西條に静かに告げた。



「ディーン・マクスウェル氏及びアラン・ハリスフォード氏の検死が

 ようやく終わりました。両者とも希少な毒物の反応が出ました。

 既に、スコットランドヤードの方に結果を知らせました。」



和道は、樹珠愛のそばに行くと樹珠愛をぎゅっと抱きしめていった。

「樹珠愛、よく頑張ったな。」

樹珠愛は和道の胸に顔をうずめると身を小さく震わせて泣き出した。


フィリップはそっと西條に薬の入った小袋を差し出した。

西條は小さく頷くとその袋を受け取った。


その夜、家に戻っても樹珠愛の涙は止まらなかった。

「樹珠愛、涙を止めることなんて無いんだ。

 全部出しちゃえよ。」

和道はそう言って樹珠愛の肩を抱いた。


西條もいそいそとキッチンで温かいリゾットを作りはじめ、

湯気がたったリゾットを樹珠愛の前に置いて、

スプーンですくうと樹珠愛の口元に持ってきた。

「ほら、少しでもおなかにいれないと・・・。

 口を開けて下さい。」

西條がそう言うと樹珠愛は戸惑ったように

「龍哉さん、私赤ちゃんみたい。」

と言う。


「赤ちゃんでも良いのでほら口を開けて。」

樹珠愛が口を開くと温かいトマトのスープの味が

口に広がった。


「おいしっ。」樹珠愛はそう言うと西條は

再びスプーンを口元に運ぶ。

体が温かくなってくると何だか眠くなってくる。

そのまま体から力が抜けていく樹珠愛を

和道が優しく抱きとめると、西條が

スプーンを置いて樹珠愛を抱きあげてベッドに運ぶと、

和道に言った。


「フィリップ様の薬が効いておりますので

 樹珠愛様はゆっくりおやすみになれますよ。」



「わかった。今度は俺達の番だな。」

和道はそう言うと電話をとりあげる。

「あっ。東条コーポレーションの東条和道です。

 スコットランドヤードにコネクションを作りたいのですが・・・。」


西條も携帯で様々な所に電話をかけ始めた。

「東条コーポレーションの西條です。至急株を買い集めたい。・・・」

2人の顔は引き締まった男の顔をしており

その表情は厳しかった。




 
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