君と僕らの三重奏

       第11章 血の繋がった弟 −5−

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「ねえ。ジーン。お姉様疲れていらっしゃるよね。」

エドワードはそう言いながら身を起こした。

「そうですか?」

少なくてもジーンには樹珠愛がいつもと同じだったような気がする。


「ううん。疲れていらっしゃるよ。

 何か僕に出来ることないかなあ。」

エドワードがそう言うとジーンは微笑んで言った。

「今は、体を治すことが一番ですよ。

 手術後の経過も良好だそうなので、後少しで退院だと

 フィリップ先生もおっしゃっておりましたしね。」


「うん。わかった。あっ。」

エドワードはそう言ってジーンの顔を見あげた。

「どう致しましたか?」

「あのね。お願いがあるんだけど・・・。」

エドワードはジーンに買い物を頼んだ。






「ジュリア、明日から一週間は静養しなさい。」

フィリップは樹珠愛の顔色を見てそう言った。

「思ったよりもきつかったみたい。」

樹珠愛はそう言いながら切なそうに微笑んだ。


樹珠愛の隣には和道がいて心配そうに樹珠愛の顔を見つめた。

夜中に樹珠愛は泣きながら目を覚ます日が続いていたからだ。


「エドワードは快方に向かっているから、少し自分の為に

 静養しなさい。

 このままなら、入院させるからな。

 間違っても仕事や研究なんてやらないこと。

 樹珠愛しかできないことはもうないから、

 後は他の人に任せなさい。」

フィリップがそう言うと、樹珠愛は俯きながら小さく頷いた。



その時、部屋に西條とハリーが入ってきた。

2人は朝から色々と打ち合わせをしていたようで

ハリーは、エドワードの見舞いに、西條は樹珠愛を迎えに来たのだった。


フィリップが西條に樹珠愛を静養させるように言うと

ハリーが口を開いた。

「ロンドンは気候があまり良くないので、よろしかったら

 樹珠愛様、別荘に行かれませんか?」

「別荘?」

「ええ。田舎であるのは山とか川とかですが

 ロンドンからそんなに遠くない場所に別荘があるのですよ。」



「えっ。でも・・・。」

樹珠愛が心配そうな顔でハリーを見上げた。

「大丈夫ですよ。あの女の方は今フランスにおりますし

 何もない田舎の別荘には興味はございませんから。

 それに、東条様や西條様もいらっしゃるなら安心できますよね。」

ハリーはそう言って微笑んだ。


「それがいい。樹珠愛、そうしよう。」

和道がそう口を挟んだ。樹珠愛が小さく頷くと

ハリーが早速列車の手配をしてくれると言ってくれた。




3人は家に戻り簡単に荷物を整理して翌日の昼には

別荘に向かうために列車に乗り込んだ。

樹珠愛は、少しふさぎこみがちだったが、和道や西條が

色々な話をふってくるので、次第に緊張を解き、

笑顔を見せていた。


列車を数回乗り継いで、その別荘がある小さな停車場に着いた頃は

日が傾き、夕日がホームを赤々と照らしていた。

3人が降りると、1人の初老の男が近づいて来て言った。

「ようこそ、遠いところいらっしゃいました。

 ジュリア様、ご立派になられて・・・。」

男は樹珠愛の姿を見て嬉しそうに目を細めながら、

車に案内した。



車はアンティークな雰囲気の黒い車で、それに乗っていると

まるで一昔前に戻ったような気分になったが、樹珠愛は暢気に

風景を楽しむ余裕が無かった。

隣に座っている和道と西條が励ますようにぎゅっと樹珠愛の手を握った。

その手はとてもあたたかくて、それだけで樹珠愛は

涙が流れそうになった。



車はしばらく走って、生垣の美しい家の前に止まった。

「ここが・・・?」樹珠愛は和道に手を引かれて車を降りて

家を見あげた。



そこには、いかにも童話に出てきそうな

石造りの建物がどっしりと建っていた。

車を運転していた男が恭しく樹珠愛に向かって言った。

「おかえりなさいませ。レディ.ジュリア。

 貴女のお帰りを心よりお待ちしておりました。」



 
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