君と僕らの三重奏

       第11章 血の繋がった弟 −3−

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「お疲れ。ジュリア。」

手術を終えて、手を洗っていた樹珠愛と

並んで手を洗いながらフィリップはそう声を掛けた。

「お疲れ様。フィリップ。やっぱりフィリップとのオペが

 一番やりやすいわ。ありがとう。」

「その・・・大丈夫か?」

フィリップが心配そうに言うと樹珠愛はにっこりと微笑んで言った。


「手術前までは、色々と考えたけれど始まってしまったら

 集中するだけで、それ以上のことは考えられなかったの。」


確かに手術中の樹珠愛の集中力はすさまじいものがあった。

他の医師・・いや自分でも成功率が決して高くはない手術を

難なく成功させてしまった。

「ジュリア、少し休め。疲れたろう?」

フィリップがそう言うと樹珠愛は首を振って言った。

「あの子が目が覚めた時に会おうと思うの。」





エドワードはぼんやりと目を開けた。

・・・助かった?・・・

そう思っていると、隣に座っていたであろう人が

エドワードを覗き込んだ。


「気がつきましたか?」

エドワードはその顔を見てパチパチ目を瞬かせた。

黒い髪に自分と同じ色の碧の目。

「お・・ね・・・え・・・さ・・・ま・・・。」

乾いた口で言ったから自分の声とは思えないほど

弱々しい声しかでなかった。


「まだ、眠いわね。ゆっくりおやすみなさい。」

樹珠愛がそう言うとエドワードは小さく頷いて

樹珠愛の服を掴んだ。

「そばにいるから。」

樹珠愛がそう言うとエドワードは安心したように

にっこりと微笑んで目を閉じた。



ハリーとジーンはエドワードの手術が無事成功したと

聞いてほっと息をついて、顔を見に行くことにした。

ガラス張りのICUを覗くとベッドの横に、樹珠愛が立って

優しそうにベッドの上のエドワードの髪を撫でていた。


ハリーとジーンはしばらくそのまま立って樹珠愛を見つめていた。

エドワードが次に目を覚ましたときも

変わらずに樹珠愛はベッドの横にいて

優しく微笑んで口元を濡れたガーゼでぬぐってくれたりして

色々と面倒を見てくれた。




その次の日にはICUから病室に戻り、ジーンがずっとそばにいてくれた。

しかし、手術の次の日の朝、樹珠愛の顔を見た以来、

樹珠愛がエドワードの病室を訪れていない。


「ジーン、お姉様は僕のこと嫌いになったのかな?」

寂しそうに言うエドワードにジーンは首を振って言った。

「嫌いになったら、手術をしてくれるわけないですよ。」


「手術?そう言えばあの日お姉様は、フィリップ先生が着ていたような

 緑の服を着ていた。お姉様って・・?」

「樹珠愛様は、優秀な外科医なのですよ。

 何でも、9歳の時に免許をお取りになったとか。」

「9歳・・。僕より小さな年で・・・。」

エドワードは驚いたようにジーンを見つめた。


ジーンは明るくにっこりと微笑んで言った。

「さあ、もう少しおやすみになってください。

 ジュリア様も用がおすみになりましたら

 また来て下さいますよ。」

そう言いながら、エドワードの布団を優しく直してあげると

エドワードは又眠りについた。




「龍哉・・・わりぃ。眠ってしまったか?」

和道は大学病院のベンチで隣に座っている西條を見あげながら

言った。

「和道様、お疲れでしょう?2日徹夜ですから。」

西條はそう言って和道の頭を優しく撫でた。


「いや・・俺なんかよりずっと疲れている奴いるからな。」

和道はそう言うと、硬く閉められた扉をじっと見つめた。



エドワードの手術の次の日。

樹珠愛はフィリップと共に地元の大学附属の病院で

自分の父とハリーとジーンの父の司法解剖をしている。

すでに、解剖する部屋に入ってから

16時間くらい経っている。



すると、扉が開いて樹珠愛の肩を抱いたフィリップが現れた。

樹珠愛の顔は真っ白だ。

「樹珠愛。」和道が樹珠愛のそばに行こうとすると樹珠愛が言った。

「和道、シャワーを浴びたけれど私すごい臭いだから・・・。」

死臭は、そうそう取れるものではないらしい。

和道は迷わずに樹珠愛のそばに行くとぎゅっと抱きしめて言った。

「馬鹿。そんなの気にするわけないだろうが。」

「ほら、樹珠愛様、帰って休みますよ。」

西條もそばに来て言った。あまりにも普段どおりの2人に樹珠愛は涙を流しながら

コクコク頷いた。




 
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