君と僕らの三重奏

       第11章 血の繋がった弟 −2−

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その夜、樹珠愛が家に帰ってきたのは

かなり遅くなってからだった。

西條が優しく微笑みながら、

「樹珠愛様、雑炊でも作ります。

 体が温まればゆっくりとおやすみになれますよ。」

と言って、キッチンに入っていった。


和道は、本を閉じて

「着替えてきて、座れよ。」と言った。

日本にいた時と同じ雰囲気の2人に樹珠愛は小さく頷いて

部屋に入った。



シャワーを浴びてパジャマに着替えると

温かい雑炊ができていた。

柔らかい味の和風のスープは何だかとても優しい味だった。



食べ終わると、和道が樹珠愛の小さな肩を抱いて言った。

「樹珠愛、不安か?」

樹珠愛は和道の肩にぽふっと頭を乗せて小さく頷いた。


西條もキッチンから出てきて樹珠愛の横に座って

樹珠愛の手を握って言った。

「樹珠愛様、魔法をかけて差しあげますね?」

西條はそう言って樹珠愛の耳元でこう囁いた。

「樹珠愛様なら大丈夫。大丈夫です。」

和道が優しく樹珠愛の頭を撫で始めた。


樹珠愛の体からなんだか力が抜けてくる。

「明日は良い日になるさ。樹珠愛ゆっくりとおやすみ。」

和道の声が遠くで聞こえたような気がした。





手術の数時間前、エドワードの病室にフィリップが入って来た。

病室にはハリーとジーンの姿もある。

「エドワード、いよいよ手術だね。

 一緒に頑張ろうな。」

フィリップはそう言ってエドワードと握手をする。

エドワードも小さく頷いた。


フィリップが満足そうに頷いて廊下にでると

ジーンが病室から出てきた。

フィリップがジーンに微笑んで言った。

「大丈夫ですよ。ジュリアは絶対成功させます。

 彼女は名医ですからね。」


「ジュリア様は?」

「朝からスタッフと細かく打ち合わせをしていますよ。

 彼女はオペのスピードが速いので看護士も優秀ですから

 安心してください。」

フィリップはそう言うとにっこりと微笑んで

廊下を歩いて行った。


その数時間後、全身麻酔をして眠っているエドワードを前に

樹珠愛が静かに告げた。

「それでは、手術を始めます。」




手術が始まるとハリーとジーンは心配そうな面持ちで

手術室の外にあるベンチに座っていた。


すると、廊下を1人の長身の男が歩いてきて2人の前で止まった。

「あっ。Mr.西條・・・。」ジーンは驚いたように言う。

「ご無沙汰しております。手術は最低4時間はかかるそうです。

 よろしければ、一緒に別室でお茶をしませんか?」

2人は顔を見合わせると西條と一緒に行くことにした。


ハリーとジーンが西條と共に部屋に行くと

和道がにこやかに2人を迎えた。

お互いに自己紹介がすみ、和道がお茶でも飲みましょうと言うと

ハリーが立ちあがって言った。


「私が紅茶を淹れてもよろしいですか?

 是非、本場の紅茶を味わって戴きたい。」

和道が頷くとハリーは慎重に紅茶を淹れだした。

それと同時に西條が見事な手つきで

皿にケーキ、サンドイッチ、スコーンを並べ、

クロテッドクリーム、ラズベリージャム、レモンカードの

スプレッドを添える。


「随分、手馴れてますね。」

そう言うハリーに西條は何事もないように答えた。

「樹珠愛様がお好きなのですよ。

 樹珠愛様にはイギリスの血も流れているからなのでしょうね。」


その言葉にハリーは、この男がどんなに樹珠愛を大事にしているのかを

うかがうことができてとても嬉しい気持ちになった。



一方ソファに座ったジーンは、部屋をぐるっと見回した。

自分が使っている応接セットの向こうは机がありたくさんの本が

山積みになっている。

ふと、その1つの背表紙を見てジーンは目を見開いた。

『世界の毒草とその症状について』

それがその本のタイトルだった。




 
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