君と僕らの三重奏

       第11章 血の繋がった弟 −1−

本文へジャンプ




「暇だぁ〜〜〜。」ソファに寝転がっている和道はそう言いながら

伸びをした。

「和道様。お行儀が悪いですよ。」


後はジャケットを着るだけになっている西條が微笑みながら

和道の前にコーヒーのカップを置いた。

「もう、レポートも書いたし、勉強も前倒しで余裕したし、

 昨日は暇すぎて溜まっていた仕事までこなしたし・・・。」

「ほう、和道様。もっとお仕事増やしましょうか?

 何でしたら、私と共にロンドン支社に出勤なされてもよろしいのですよ。」

にっこり微笑む西條に和道は首をブルブル振って

「えっと、今日はちょっとそこらへんを散歩でもしようかな。」

と言うと、西條はクツクツと笑った。



「ほら、樹珠愛の好きな菓子でも買ってきて少しでも

 気持ちが楽になれると良いと思って。」

「こちらに来て、食が細くなっていますものね。

 私も早めに仕事を切りあげて夕食は和食を作りますね。」


「西條、明日は・・・。」

「明日からは仕事をいれておりませんよ。

 明日はエドワード様の手術、その2日後には

 お父様の司法解剖がありますからね。」

「なあ、龍哉。人生ってこんなに残酷なものなのか?

 樹珠愛は、父親の顔を覚えていないって言っていたよな。

 これから時に思い出す父親の顔って死人の父親なんだぜ。」

「本当にそうですね。

 しかも死後かなりたっておりますからね。

 お世辞にも綺麗なものではないでしょうね。」

2人は顔を見合わせると重い溜息をついた。



「龍哉、俺はその解剖の結果が何事もない方が

 良いと思うよ。でも・・・。」

そんな可能性は無いと思う・・・。

その言葉を和道は飲み込んだ。

「そうですね。

 この司法解剖によっては事件が大きくなる可能性も

 ありますね。」


「龍哉、樹珠愛は大丈夫だよな。」

「あの子は、強そうで脆いところもありますからね。

 それでも、私達が支えるのでしょう?」



「ああ。親父が夏休みが過ぎても何とか理由をつけて

 学校の方は何とかしてくれるそうだ。

 イギリスだけでなく、ヨーロッパは樹珠愛にとって

 懐かしいところもあるだろう?

 少し落ち着いたらそっちを周って帰らないか?」

「そうですね。

 少しその辺りの情報探しておきますね。」

西條はそう言うと、和道にキスをして家を出て行った。



ここは、ロンドンのキースの拠点の1つにしていたという家で

ロンドンには珍しく一軒家だ。

それはそのはずで、その地下には立派な手術室付きの

診療所があり、4歳の樹珠愛がここで手術を受けたらしい。



定期的にハウスキーパーとガーデナーの手が入っているからか、

中はとても美しく整えられ、庭も美しい。

樹珠愛の話ではヨーロッパの主要都市にはマンションや一軒家が

あるとそうだが、キースと慎吾が死んでからは樹珠愛自身も

用事があるとホテルに泊まっていたようで

久しぶりに来たそうだ。



この家にいるとキースや慎吾のことを思い出すのだろう。

インテリアはどれも趣味よくまとまり、家の中には小さいながらも

茶室がある空間は何だか日本にいる錯覚さえ覚える。

インテリアには樹珠愛が小さな頃書いたのだろう、3人で並んで

手を繋いでいるクレヨン画をいれたフレームなどもあり

確かに人が住んでいたという名残が感じられる。



「キースさん、慎吾さん樹珠愛を見守ってください。」

和道は思わずそのフレームに手を合わせてそう言った。




「エドワード。それでは、明日頑張ろう。」

フィリップが笑顔を見せてエドワードを励ますと

エドワードは小さく頷いた。


枕元にはハリーとジーンが座って挨拶をした。

「明日の手術の執刀医は、もうここに来て

 熱心に準備しているので安心してください。」

フィリップがそう言うと2人は安心したように頷いた。


ロンドンに来てから樹珠愛はエドワードどころか

ハリーにもジーンにも会っていなかった。

毎日、朝から晩まで病院でいろいろな本を読んでいる。

本当はこの病院で司法解剖をさせてやりたかったが

司法解剖にはそれ独自の施設が必要であるので

フィリップも立会いの上、ロンドンの有名大学の付属病院で

行うことになった。


既に死体は秘密裏に掘り起こされて運ばれている。

「さすがに何て声を掛ければよいのか・・。」

フィリップはそう言いながら長い病院の廊下を歩いた。




 
   BACK  NEXT 

 Copyright(c) 2007-2010 Jua Kagami all rights reserved.