君と僕らの三重奏

       第10章 兄現る? −5−

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「栞さんありがとう。じゃ、和道。行ってきます。」

翌朝、樹珠愛はいつものように髪を整えてくれた栞にお礼を言って

和道の頬にキスをするとマンションの部屋を出た。


西條は、今日は日帰りで出張とのことで朝早く出掛けている。

いつものようにエントランスに停まっている車に乗ると

樹珠愛は、真っ青な空を見あげた。

「明は、今頃空の上ね。」







その数時間前、まだ明け方の街並みの中、西條が歩いていた。

西條の隣に車が停まり、西條を乗せ静かに進む。

ついた先は、セキュリティに優れていると評判な一流ホテルだった。


ホテルに入ると、「西條様、おはようございます。」とダークスーツの男に挨拶をされた。

「おはようございます。」



確かこの男は晨(チェン)という男だ。

年は西條よりも上のようだ。穏やかな物腰だが

やはり裏社会に生きる男の香りがすると西條は思った。



男に案内された部屋は予想通り、そのホテルで一番高いとされている部屋だった。

「Mr.西條。おはようございます。」

明は既にダークスーツを見事に着こなして立って西條を迎えた。


西條は明に勧められてダイニングテーブルに着いた。

テーブルの上にはフレッシュジュース、ベーコン、ソーセージ、

焼いたトマト、スクランブルエッグ、キノコの炒め物、

ハッシュドポテト、フライドオニオン、果物が彩りよく並んでいた。


「これは、樹珠愛様お気に入りのメニューですね。」

西條がそう言うと明は笑って言った。


「ああ、樹珠愛はこれが好きだな。

 最も、ちょっとずつしか食べないけれど、

 香港ではお粥の朝食を良く食べているな。


「家では最近和食ばかりですが、時々イングリッシュブレックファーストを

 食べたくなるみたいですね。自分で作っていますよ。」


「樹珠愛は料理好きだからな。」

明はそう言いながら朝食をすすめ、自分も食べ始めた。



朝食が終わり、紅茶を飲んでいると明が口火を切った。

「我々は樹珠愛の居場所をどこにいても掴んでいる。

 昔、キースに頼んで樹珠愛の皮膚の下にチップを埋め込んでいる。

 だから、あいつに何かがあるとすぐに動くことができる。

 それは、俺の親父の愛人という立場もあるから樹珠愛の

 身の危険は察知することができる。

 そして、樹珠愛自身にはピアスを持たせそれをはずすと

 我々が行くという風に聞かせている。」


「そうですか?」


「しかし、樹珠愛は今あなたがたといる。

 そして一緒にいるということはあなたや和道も

 樹珠愛に巻き込まれる可能性がある。」


「ええ。その可能性は私も感じております。

 しかし、あの子は私にとっても和道様にとっても

 大切な家族なのです。だから、樹珠愛を手放そうと

 私も和道様も考えてはおりません。」


「わかった。もし、我々に手助けができるなら

 連絡して欲しい。この電話番号は私直通の電話番号で

 私が出なくても晨が出る。」



「その見返りは?」西條が静かに言うと明は目を細めて微笑んだ。

「さすが、天才と呼ばれた男は違うな。

 頭の良い男は好きだ。」



「それで?」西條の雰囲気が変った。にわかに殺気を出している。

「我々は秘密裏にある組織を作ろうと思っている。

 その組織は、裏社会を調整する組織だ。

 そして、その組織の幹部は表社会で生きている者に

 任せたい。

 組織の性質上、裏社会の人間にするとまずいと思うからだ。

 その組織の幹部に西條龍哉を推薦したいと思う。」

「それはあまりにも私にリスクが大きくないですか?」

西條は冷静になって言った。



「ああ。しかし、その見返りとしては相当のものは用意できる。

 その他に劉一家の次期継承者として約束をしよう。

 東条家直系とその家族の者、そして西條龍哉の親族、

 加賀見樹珠愛に対しての警護は万全にすること。

 そして・・・。」

ここで明はまっすぐに西條の目を見て言った。


「裏社会で処理して欲しいものがあったら、私が請け負う。

 それは、事件でも、人でもだ。」

「人・・・?」

明は遠まわしに暗殺まで請け負うと言うのだ。



「すぐに、決める問題ではないのはわかっている。

 その組織が本格的に稼動するまで3年と見ているから

 1年後まで返事が欲しい。」

西條は、明の目をまっすぐに見て言った。

「かしこまりました。」



明はそのまっすぐな眼差しを見て微笑んで声を落として言った。

「後、2、3個人的に頼みがあるのだが・・・。

 何、たいした頼みでない。

 晨に聞かれたくないから、後でメールして良いか?」

西條は、頷いて自分の名刺の裏にプライベートアドレスをメモして

明に渡してそのまま部屋を後にした。




今回の明の来日の目的は自分だったのかと西條は小さく溜息をつくと

出張に向う為、車に乗り込んだ。


新幹線に乗ると、携帯が震え着信を告げた。

それを見て西條は小さく微笑んだ。

「お願いその1。和道とメルトモになりたい。

 お願いその2。樹珠愛の近況を時々知りたい。写真あると尚嬉しい。

 お願いその3。ここが重要だけど、真田に恋人がいるか知りたい。」

「文面だけ見ると和道様と変らないのですがね。」

西條はそう言うとメールに返信をしはじめた。





 
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