君と僕らの三重奏

       第10章 兄現る? −4−

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「樹珠愛。」

中華料理店の前で車を降りた樹珠愛に紅子が近寄ってきた。

紅子の後ろには上村と真田の姿もある。



「上村様、樹珠愛が無理を言って申し訳ありません。」

樹珠愛が紅子と連れ立って店に入ると西條が上村に近づいて言った。

「いや。私にとってマイナスになるわけではない。

 正直驚いているところですが・・。」


上村はそう言うと西條も口を開いた。


「彼の来日は聞いておりましたが、樹珠愛と繋がりがあるとは

 私も知りませんでした。」


西條も明の来日の情報は掴んでいたがあまり重要視していなかった。

しかし、車の中で樹珠愛に明の話を聞き驚いた。

「どおりで、我々のような職種や殺気に恐怖心を感じないはずです。

 これで謎が解けた。」

上村は、そう言いながら店の中に入った。



当然のようにその店で最高の部屋に通された部屋には既に

明と和道が和やかに談笑していた。



西條は和道の眼力に絶対の信頼を持っている。

そんな和道がこの短時間で本来の自分を出して話をしているのを見て、

西條は少しだけ肩の力を抜いた。


樹珠愛は、にこにこ笑いながら皆を紹介して、席に着いた。

早速運ばれてきた美しい前菜を口に運んだ樹珠愛は嬉しそうに明を見つめた。



「わかったかい?」明は微笑んで言った。

「晨(チェン)!!晨来ているの?」

樹珠愛は嬉しそうに言う。

「晨って誰?」紅子が不思議そうな顔をすると明が

「晨って、私の教育係りなのですが、素晴らしい料理の腕を持っている。

 私と樹珠愛は晨の料理は中華で一番だと思っているのですよ。」

明がそう言ってふと思い出したように言った。

「樹珠愛、晨は厨房におりますよ。紅子さんや和道も芸術的な

 点心作られるのを見るのも楽しいと思いますよ。

 行ってみたら?」


明が視線を送ると、1人の男が案内しますと進み出た。

紅子は真田と上村、和道は西條を咄嗟に見た。

「楽しそうじゃないか?行っておいで。」上村はそう言って

西條も頷いた。


「じゃあ、行こうかな?」紅子がそう言って立ち上がった樹珠愛と和道も

一緒に部屋を出て行った。





すると、突然明を纏う雰囲気が変る。

今までの穏やかな表情は消え、眼光鋭い肉食動物のような眼差しは

恐怖すら覚える。


しかし、西條は平然とした顔をしていたし、上村と真田は

軽く腰を浮かせ構えの姿勢を取ってはいるが表面上は平静を装っていた。


「改めて、私、劉明と言う。」

明はそう言うと、上村が驚いたような顔をした。


明は口元だけクッと笑って言った。

「そう。私が劉一家の継承者。」

「そんな、情報を話して良いのですか?」

西條がそう言うと明は口を開いた。


「それ話さないと、樹珠愛との関係を言えないだろう?

 あなたがたは樹珠愛を大切にしているようだし。」

「どういう関係なのですか?」上村が口を開く。


「樹珠愛は、俺の親父の最後の愛人なんだ。」

3人は思わずそのまま固まった。

「あ・・い・・・じ・・・ん?」



「ああ。樹珠愛は現当主の命の恩人で最愛の愛人だ。

 まあ、最も体の関係はあるわけがない。」

「詳しくお聞かせくださいますか?」西條が口を開くと明が頷きながら言った。



「樹珠愛と父が会ったのは、樹珠愛が9歳の時、父が心臓発作で街角で倒れたのだ。

 その時、そばにいたのが買い物の途中の樹珠愛だった。

 樹珠愛は、すぐに父のそばに来て、適切な処理をしてくれて

 自分の保護者は医者だからとその診療所に案内した。

 自分の主治医が来るまで待てない状況だったので

 そのまま父をその診療所に運んだんだ。



 そして、そこで父は樹珠愛の手によって手術され命が助かった。

 本当は父は樹珠愛を引き取りたいと考えていた。


 しかし、樹珠愛の保護者がキース・バートンということで

 それはできなくなった。そして、キースは色々な裏組織から狙われている男だった。

 だから、父はせめて樹珠愛だけは守りたいと思った。


 しかし、普通の1人の女の子を守るには父の名前は大きすぎた。

 そこで、樹珠愛を形だけ愛人として迎え、碧と呼ぶようにした。

 組織で樹珠愛の本名を知っているのは父と私と側近だけだ。」



「碧。噂で聞いたことがある。劉一家の愛人碧は当主の大層のお気に入りで

 当主は多大な財産を彼女に掛けているということを。」上村がぽつりと言うと

明は頷いて言った。



「ああ。樹珠愛は父に香港に病院を建てさせたんだ。

 しかし、表面上はそういうわけにはいかないから

 いろいろな理由をつけてそのような噂に落ち着いたんだ。」

「しかし、いくら愛人と言っても樹珠愛があなた方の弱点になるのは

 間違いない。なのに、どうして樹珠愛はあんなにも自由に歩いているのですか?」


「それは、樹珠愛のバックには父だけでなく、イタリアとアメリカのマフィアも

 ついているからだ。碧に手を出すことは裏社会の滅亡を意味する。と言う情報操作もした。

 まあ、樹珠愛を可愛がっている人には実際両方がいるからな。

 そして、日本では龍翔会か・・・。つくづく大物釣りだな。」

明は杯を煽って続けた。



「傍にいるだけで、暖かい気持ちがする。

 それと同時に穢れてほしくない。

 あの子は唯一残っている私の良心なのかもしれないな。

 まあ、今回の来日は妹に会うための私的なものだ。

 それで良いだろう?」

そう言いながら西條と上村、真田を見回すと

3人は大きく頷いた。

きっとこれからは、何かと関わりが出るかも知れないが

今はこのままで良いと思った。



それを見て明は元の穏やかな表情に戻り世間話を始める。

西條や上村・真田も緊張を解いて話しに加わる。

樹珠愛達が戻ってきてもその和やかな空気は続き

予想外に楽しい時が過ぎた。




 
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