君と僕らの三重奏

       第10章 兄現る? −3−

本文へジャンプ



樹珠愛が車から電話を掛けたので、マンションについて

すぐに、和道がマンションに帰ってきた。


西條は仕事が終わった頃に本社まで迎えに行き

そのまま会食に向うことに決めた。


リビングで樹珠愛の着替えを待っていた明の前に

和道が紅茶を置いた。

「ふーん。」明は、前の椅子に座った和道を見つめた。


その視線は鋭いがそんな視線に負けるような和道でない。


「何か?」優雅に足を組み御曹司モードで明に微笑みかけた。

「まあ、お前みたいな一癖も二癖もあるような人間でなければ

 樹珠愛の家族になれないのか・・・。」


「それは、褒め言葉ですか?」和道は冷静に言う。

明は、ふふっと笑って言った。

「そう、褒め言葉だよ。東条和道。

 あんたがたと暮らしてからの樹珠愛は

 幸せそうだ。俺や父は樹珠愛を大切に思っているが

 人並みの幸せと言うものは与えることが難しいからな。」


「それは・・・?」

「まあ、俺にも事情があってな。」明はそう言いながら紅茶を飲んだ。


少ししたら着替えた樹珠愛がリビングに入って来た。

樹珠愛は、白のワンピースにライトグレーのロングカーディガンを着て

白くて丸いバックを持っている。

明は樹珠愛のその姿を驚いたように見た。


「どうしたの?」樹珠愛は不思議そうな顔をすると明は樹珠愛ではなく

和道に聞いた。

「この家には母親でもいるのか?」


「はあ?」

和道は急にそう聞かれて間の抜けた返事をする。

「樹珠愛はこんなに女ぽくなかったし、服と言ったって・・・。」

さすがの明もここで口ごもる。



以前の樹珠愛はファッションにはあまり興味を示さず、

スーツかラフなジーンズにTシャツ、どちらかのファッションしかしなかった。

「何だか、凄い言われようだわ。」

樹珠愛も困惑したみたいに言った。


「ああ。父がチャイナドレスを揃えるとそればかりだったろ。

 何だか、髪の毛もボサボサでないし・・・。」


和道が片手の甲で口を覆いながらクツクツ笑った。

「もう。ひどーい。」樹珠愛は愛らしく頬を膨らませた。

「樹珠愛には専属のスタイリストがいるのですよ。」

「そう・・・すごく煩いスタイリストでエステシャンが・・・。」

樹珠愛は、鼻に皺を寄せて言った。



「でも、可愛い。」

「ああ。ずっと可愛いよ。」

明と和道に真顔で言われて、樹珠愛は首まで真っ赤になった。

明はそんな樹珠愛を嬉しそうに目を細めて見た。



夕方、マンションの前には、2台の外車が控えていた。

「樹珠愛、私は和道と共にレストランへまっすぐむかう。

 Mr.西條と一緒にもう一台で来てくれ。

 レストランで待っている。」


そう言いながら明は樹珠愛の頬にキスをして、樹珠愛の乗った車を見送ってから

和道と一緒に車の後部座席に乗った。

しばらく、走ると明は和道に話した。


「感謝するよ。樹珠愛があんなに年相応の表情をするようになって

 安心した。」

「いえ。我々は何もしてないですよ。」

「考えてみると、樹珠愛に何の見返りを持たないで接する人は

 そういなかった。」


「ああ。キースさんと慎吾さん以外という意味ですか?」

「とんでもない。あの男は・・・。確かに樹珠愛を大切にしていたかもしれないが・・・。」

明は怒ったように拳を握り締めた。


和道は驚いたように明を見つめた。

「君はキースが慈善で樹珠愛を引き取ったと思っているのか?」

「違うのですか?」


「確かに助けたいという気持ちはあったのだろう。

 しかし、あの男は樹珠愛をある意味自分の実験台にしたんだ。

 確かに命を救ったのかもしれない。

 でも、科学者の好奇心が刺激されたことも事実だと思う。」


「本当に?」

「ああ。だから樹珠愛はキースに並ぶ程の頭脳を持っていると

 俺は思う。彼らが樹珠愛を大切にしていたのは確かだが・・・。

 正直に言うと、あれだけの頭脳にしなくても良かったはずなんだ。

 これは、あくまでも俺の憶測だが・・・。」


「樹珠愛は幸せではなかったのですか?」

「いや。それなりに幸せそうではあった。

 しかし、どこか寂しげな印象はあって、大人びていた。」

「そうですか・・・。」



「樹珠愛はあんな顔もできたのだな。和道、樹珠愛を頼むよ。」

和道が「できる限り支えていきます。」と言うと

明は安心したように微笑んだ。




 
   BACK  NEXT 

 Copyright(c) 2007-2010 Jua Kagami all rights reserved.