君と僕らの三重奏

       第10章 兄現る? −2−

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紅子の家に行った次の日、樹珠愛と紅子はいつものように

一緒に校門を抜けた。


その時、向い側に停まっていた車の後ろのドアが開き、

一人の男が出てきた。

男は、嬉しそうに樹珠愛の方へ駆け寄ってくる。


樹珠愛はその男を見て驚いて目を見開くととても嬉しそうに

「明!!」と言って男の方に駆け出した。

2人は道路の真ん中で抱き合うとハグとキスをした。



紅子がポカンと2人を見ていると何故か慌てた様子の真田が

「紅子様」と近寄って来た。


男は慣れたように樹珠愛の肩を抱いて紅子の傍に戻って来た。

「紅子、こちら私の香港での兄みたいな人で明と言うんだ。

 明、私の友達の紅子。いつも話しているでしょう?」

紅子はまじまじと目の前の男を見あげた。


身長は、190くらいあるだろうか。

すらりと背が高く、甘く彫りの深い顔をしている。


「紅子さん、初めまして。ジュリアの兄の明です。」

明はそう言いながら紅子に片手を差し出し、紅子の後ろの真田を

鋭い目で一瞬見た。



真田はその強い視線に体を硬くした。

明の後ろにはダークスーツの男が2人ほど控えている。


樹珠愛は、その男達にもにこやかに挨拶している。

「明。また、無理に向こうから来たんでしょ?

 どうしたの?」


樹珠愛が明に言うと明は微笑んで言った。

「ジュリアの誕生日を祝おうと思って。

 ほら、夏来れないって聞いたから。」

「明、それでわざわざ日本に来てくれたの?」

「ああ。と言っても明日の朝の便で戻らなくてはならないから

 一緒に夕食でも食べないか?

 良かったら、紅子さんとお付の方も一緒に。」

明は樹珠愛の腰を抱きながら言った。



何も知らない紅子は「行きたいけれど、真田良いか?」と真田を見あげた。

知らないなりには、真田のピリピリした感じを捉えているらしい。


「行こうよ。紅子。明、美味しい中華が食べたい。

 あっ。今一緒に暮らしている、和道と龍哉さんも一緒で良い?」

樹珠愛が暢気な声で言った。


「ああ。私も挨拶したかったしね。」

明は穏やかに微笑んで樹珠愛に言った。

「あっ!!明、日本武道に興味あるんだよね。

 じゃあ、師匠も呼びたい。

 私、紅子の家の道場で習っているんだ。」



真田は頭を抱えたくなった。

その樹珠愛の師匠は、樹珠愛の隣で微笑んでいる男のお蔭で

事務所でピリピリしているはずだ。



樹珠愛が気軽に明と呼ぶ男。

黄 明。

劉一家と呼ばれる香港で最強のマフィア。

その中で黄 明と言われる目の前の男はどこまでも冷酷で

大きな実権を握っている男だと言われている。


その男が来日したと聞いて、裏社会では穏やかではない噂が

飛びかっているのだ。


「私も紅子も着替えたいと思うから、

 明は取り合えず私のマンションに来てよ。

 そして、夕方紅子の家に迎えの車を出すのでいいかな?」

「ああ、私は構わない?いかがかな?」

明は真田に向って言う。


「わかりました。それでは、紅子様。

 一旦、家にもどりましょうか?」

真田はそう言うと紅子を連れ車の方に戻った。



「何だか、真田さん様子が変だったね。

 なんでかなあ?」

樹珠愛が言うと明は肩をすくめて言った。

「なんでだろうね。さあ、樹珠愛私たちも行こうか?」

樹珠愛はコクリと頷くと迎えの車におとなしく乗った。





車に乗った真田は深く息をついた。

「真田、何かあったのか?」

紅子が不思議そうな顔をした。


「紅子様、邸に戻ってから説明致します。

 若頭の方には先ほど連絡しておきましたので

 同じくらいに邸に着くはずです。」



邸に着くと上村も戻って来ていた。

紅子は着替えると座敷に行って言った。

「真田説明してくれるのだろうね?」

真田は頷いて話を切り出した。


「樹珠愛様が兄と紹介されたあの男は

 香港マフィアの最高幹部の男です。」

「うそっ。」紅子が驚いた口調で言った。


「間違いありません。

 あの男の殺気は異常でした。」

真田がそう説明した。




「クッ。」樹珠愛と並んでシートに座っていた明が急に笑った。

「どうしたの?明?」樹珠愛が不思議そうに明を見あげると

明は静かに首を振って微笑んだ。


・・・俺が殺気を飛ばしてもガン飛ばしてくるとは

   あの男面白いな。・・・

明はそう思いながら樹珠愛に香港にいる父親の話をしはじめた。





 
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