君と僕らの三重奏

       第10章 兄現る? −1−

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「樹珠愛、凄いじゃん。」

紅子は、樹珠愛の期末テストの成績表を覗き見て言った。


「そうなの?」

「そうなの?って、間違ったの、国語の1箇所だけでしょ?

 しかも、学年1位だよ。

 凄くないわけないでしょう?」

「そう、やっぱり古文、苦手だよ。」


「ねぇ。樹珠愛、古文苦手でも漢文は得意だよね。何で?」

「あ〜〜。」

樹珠愛の目はそこで泳いだ。


「ねぇ。どうして?」

「紅子、実は漢文は中国語で読めるから得意かも・・・。」

「ああー。中国語、ペラペラだもんねぇ。」

紅子は納得したように言った。


「まあ、香港には家族同様につきあっている人いるしねぇ。」

樹珠愛はそういうと、紅子の成績表を覗き見た。


「ギャーーッ。見ないで!!」

紅子はそう言いながら自分の成績表を隠した。






ジーンが帰国したから既に半月がたち7月に入った。

今月末には和道と西條とともにイギリスに行く予定だ。


口には出さないが前倒しで業務や勉強をこなしているらしく

最近、2人とも帰る時間が遅い。


樹珠愛自身も気持ちの切り替えができ、

こうして高校生活も楽しんでいる。

つかの間の静かな生活を心から楽しんでいた。





その頃、成田空港の中を黒ずくめの男が5人歩いていた。

『護衛は、いらないと言ったのに。』

真ん中にいる背の高い男が眉をひそめながら英語で言った。


『これでも、護衛を少なくしたのです。

 まったく貴方はいつも何でこんなに無謀なのですか?』

その隣の側近らしい年配の男が言った。

『俺は、休暇なんだけどな・・・。』

男はぼそりと呟いた。


『休暇だろうが何だろうが貴方は自分の立場をもう少し認識なさってください。』

『はいはい。』

男は肩をすくめて言った。


『とにかく、ホテルに向かいましょう。』

側近の男はそう言うと黒い車の方へ歩いて行った。

『秋葉原・・・行きたかったのに・・・。』

背の高い男はそう呟きながら黒い車に乗った。






「紅子様、樹珠愛様、お疲れ様です。」

「こんにちは。真田さん。」

放課後、校門の近くで待っていたのは紅子のお目付け役の

真田だった。


今日は、紅子の家の道場で紅子の婚約者である上村に武芸の稽古を

つけてもらう予定だったので紅子と一緒に車に乗った。


「紅子様、期末テストの結果は如何でした?」

「さ・・・真田・・・。ほら、その話は後でな・・。」

あわてて言う紅子に真田は溜息をついて樹珠愛に聞いた。


「樹珠愛様は如何でしたか?」

樹珠愛が口を開く前に紅子が言った。


「こいつ、国語1問しか間違わなかったんだ。

 本当、頭の構造が違うんだ。」

「紅子・・・墓穴・・・。」樹珠愛が小さな声で言うと紅子は慌てて

自分の口を両手で押さえた。



「ほう・・紅子様・・・。もう少し勉強の時間を増やしましょうか?」

真田は、後部座席の紅子を振り返るとにっこりと微笑みながらそう言った。






それから紅子の家の道場でいつものように上村に武道を習っている時、

「若頭」と幹部らしい男が入ってきて

上村に何か耳打ちをした。

上村は、樹珠愛の方に向くと「急な仕事が入った。ごめんな。」と言った。


樹珠愛はにっこり微笑みながら

「師匠、稽古ありがとうございます。

 お仕事頑張ってください。」と言うと、上村は口元に笑みを浮かべて

樹珠愛の頭をポンポンと叩くと道場を出て行った。



紅子の部屋に行くと、真田が和菓子と美味しい緑茶を淹れてくれた。

「何だか、家の中が忙しないな。」

紅子が言うと真田は軽く答えた。


「別に抗争があるわけではないので安心してください。

 ただ、香港マフィアの最高幹部が東京にいるという情報が

 入ったのでせわしないだけですよ。」


「ふーん。樹珠愛、この団子美味しいぞ。」

紅子はそう言いながら真田の持ってきた団子を樹珠愛にすすめた。


「わあ。美味しい。」

「じゃあ、紅子様。私は少しあちらに。」

真田が下がった後も樹珠愛と紅子は年頃の女の子の話に花を咲かせるのであった。




 
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