君と僕らの三重奏

       第1章 君と僕らの出会い −6−

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『樹珠愛、ようやく落ち着いたようだね。』

クレール総帥は樹珠愛を隣に座らせながら言った。

『ええ。ピエール。葬儀に参列してくれてありがとう。』

『いや。君がキースの側にいてやれて良かったと思う。

 長い間看病したり葬儀を行ったり大変だったろう。

 私は、また樹珠愛の笑みを見れて良かったよ。』

『ありがとう。ソフィアにもそう伝えて。』

『ああ。でもまた遊びにおいで。樹珠愛の部屋はそのままだからね。』

クレール総帥はそう言いながら樹珠愛の頭を撫で、社長と西條の方を見て言った。

『うちと事業提携しませんか?』

まさか話がこうまで急展開するとは思わなかったが、東条社長は冷静に言った。

『それでは、プロジェクトをたちあげましょう。私の方も近々ご挨拶に伺います。』

樹珠愛が横から不服そうに言い放った。

『どうせ、そう言ってピエールは日本に来たいだけでしょう?もう少し条件つけなさいよ。』

『樹珠愛、君はなんて冷たい。』

器用にも50代中旬の男が泣きまねまでしている。

『ピエール、私はあなたの恋人でもないわ。ただの主治医でしょ。

 だいたい、何よ。いつも禁煙しなさいって言ってるでしょ。

 煙草のにおいがするわよ。』

『はいはい・・・。』

ピエールは肩をすくめながら言った。

『ピエール、ちゃんと聞いている?』

『わかりました。ドクター。』

『あんまり聞かないと主治医やめるからね。』

『そんなあ。昔から何でも買ってやったじゃないですか?

 ほら、主治医がキースの時から。』

『ほう・・ピエール・・確かに買ってくれた。でもね・・。』



樹珠愛がにっこり笑った。それが怖いのだ。

ピエールの顔が引き攣った。

『子供が純真に飛行機欲しいと言ったら、普通おもちゃだよね。

 なのに・・あんたはよりにもよってプライベートジェットだとぉ?

 しかも、運転は自分でするようにって。』

『それでも、ライセンス取ったでしょう?』

『そりゃ・・キースに笑顔で、脅されて取ったわよ。』

ピエールは肩をすくめた。



そのような樹珠愛の調子にのせられて、東条コーポレーションはクレール財閥と

大規模な取引をすることになった。

クレール総帥は樹珠愛の方を見て言った。

「樹珠愛、そういえばこの会社の近くに私の行きつけのレストランでケーキショップをオープンしたんだ。

 良ければ、君が行ってここの皆の為にケーキを選んでくれないかね?

 私の秘書と行けば私も顔を出したことになるし助かるのだが・・。」

「じゃあ、和道も一緒に良い?」

樹珠愛は、西條と社長の好みがわからないので和道を見あげて言った。

「ああ。いいぞ。」

「そこでしたら、車で10分位ですね。私が車出すほうが早いですから行きましょう。」

西條がそう言ってくれたので、数分後、社長室はクレール総帥と東条社長2人だけになった。



『いいのですか?』樹珠愛が結んだ商談はあまりにも東条コーポレーションに有利だ。

ピエールは微笑みながら言った。

『いいのですよ。樹珠愛は、愛すべき宝ですよ。これは私の挨拶代わりですよ。』

『樹珠愛は医師免許を持っているのですか?私は正直貴方よりも彼女のことを知らない。』

『ああ、それはわかりますよ。私はキースの友人でしたから貴方のことは聞いておりました。

 キースは樹珠愛に伝えたい全てを教えています。樹珠愛はキースに育てられた天才なのです。

 財産だけではなく、才能も全て彼女が継承しているのです。

 キースは徹底的に彼女の存在を隠しておりました。

 それは、キースが樹珠愛に普通の時間をプレゼントしたかったからです。』

『普通の時間?』

『そう。樹珠愛を育てたのはキースだけでない。彼の右腕で生涯のパートナー。佐々木慎吾にも

 樹珠愛は育てられたのです。』

『佐々木慎吾のことは良く知っています。』

『そうですか?彼はキースと恋に落ちて家を捨てたと聞いております。』

『ええ。その編の事情も存じております。』

『彼も私の大切な友人でした。

 慎吾は樹珠愛の情操面に影響を与えています。

 樹珠愛の一流とも言えるマナーや振る舞いは彼のおかげですよ。

 彼らは樹珠愛を本当に大切に育てていました。

 慎吾は10代に学校に通うことの必要性をキースに話していたようです。

 キースは天才がゆえに苦労したので、初めから高校からは樹珠愛を日本の学校に通わせる

 つもりだったのですよ。

 そして、キースの友人である私達も樹珠愛のことが大切です。

 だから、キースが最後まで友人として認めていた私を含む数家族だけには

 医者を辞めた後も何かあったらキースが駆けつけてくれました。

 まあ、彼と私は病院を共同経営はしておりましたがね。

 キースも忙しい身でしたので、樹珠愛が9歳の時正式に医師免許を取ったので

 それから、彼女が駆けつけてくれるんです。』

『そうですか。9歳で・・。』東条は呟くように言った。

『ええ。でも腕は一流ですよ。容赦ない師がそばにいましたしね。

 2年半前、キースと慎吾は事故に会って重傷を負ったようです。

 あの子は、2人が死ぬまでずっと看病し、葬儀も行った。

 2人が倒れてからあの子は表面上でしか笑えなくなったようです。

 久しぶりに会って少しずつ前の表情に戻って来たのでほっとしたのですよ。』

『そうですか・・・。クレール総帥。

 あの子に取って今までは、とても悲しいことが多かったように思います。

 でも、これからはあの子には幸せになってほしい。

 その為なら協力は惜しまないつもりです。』

『それを聞いて安心いたしました。

 私・・いや・・私の家族もあの子のことを自分の家族だと思っているのです。

 キースがフランスに滞在する時は樹珠愛と一緒に我が家に泊まっていましたし、

 バカンスを一緒に過ごしたこともありましたしね。

 だから、私もあの子の為なら協力を惜しみませんよ。』

クレール総帥がそういった時に、白い箱を大切そうに抱えた樹珠愛が部屋に入ってきた。

総帥はケーキを食べ終えると、

「また、怪我したら呼ぶよ。私の外科主治医さん。」

そういたずらっぽく笑って樹珠愛の頬に優しくキスをすると秘書と共に帰っていった。

 
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