君と僕らの三重奏

       第1章 君と僕らの出会い −3−

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(樹珠愛視点)


夢を見た。

キースと慎吾の夢。

2人は、嬉しそうに笑って私の手をつないでくれた。

大好きな2人。


久しぶりの手のぬくもり。

ほら・・今も私の手はあたたかい。





うん?あたたかい?

ここで、私は目を覚ました。



「きゃあ・・・・・・・・ああああああああ。」






「ごめんなさい。本当にごめんなさい。」

驚いたように起きあがった2人に私はその場で正座をしてひたすら謝った。

2人は、顔を見合わせると大きな声で笑った。

若い男は床を転げまわって笑い、背の高い男は口元に手をやってクツクツ笑う。





「あのー・・昨日・・私・・何かやらかしちゃいました・・・?」

嫌な予感がする・・・だってキースと慎吾の夢を見ちゃったし、熟睡したから。






「まあ、朝ですから朝食でも食べながら話しませんか?」

背の高い男が立ちあがりながら言った。

「あっ。私作ります。」

ここは、立候補してポイント稼いだほうがいいかも・・。

それに、こう見えても料理は慎吾に鍛えられたから。



「それは、助かりますね。じゃあ、和道様はシャワーでも浴びてください。」

背の高い男はそう言うとカーテンの方に行きカーテンを開けた。

「おう・・・」

和道と呼ばれた若い男もドアの向こうに消えた。




私は、キッチンに行くと冷蔵庫のドアを開けた。

思ったより食材がある。米もあるし、和食を作ろう。

私は鼻歌を歌いながら米を研ぎ始めた。

次にだしを取り、料理を作り始める。

できあがった料理をテーブルに並べてコーヒー用のお湯をケトルで

沸かしはじめた時、2人が入ってきた。




「おっ。和食だ。」若い男の方が嬉しそうに言いながら椅子に座った。

誰かと一緒に食べる食卓は何年ぶりだろう?

2人は嬉しそうに私のご飯を食べてくれた。

その席で、若い男は東条和道。と言う事と背の高い男が西條龍哉ということが

わかった。


キッチンの食器洗い機に食器を入れ、コーヒーを淹れてリビングに移動した

私達は今後の話をすることにした。




私はまず2人に頭を下げて言った。

「改めまして、私は楠瀬樹珠愛と申します。本名は、ジュリア・K・マクスウェルです。

 2人の甘い生活にお邪魔するのは申し訳ありませんがこれからよろしくお願いします。」

「どうして・・気づきました?」西條が聞く。

「私の母は、私が4歳の時に亡くなりました。そして、それから12歳になるまで育ててくれたのが、

 キース・バートンと佐々木慎吾という人です。その2人も事故で亡くなりました。

 その2人は恋人同士でした。そして私の家族で先生でお父さんでお母さんでした。

 きっと私が2人をキースと慎吾と勘違いしたのは、2人を取り巻く雰囲気が似ているからだと思って・・。」

「マクスウェルグループの援助はなかったのですか?」



西條は、樹珠愛の母がマクスウェルグループの御曹司と結婚していたのを知っていたようだ。

「いろいろな事情がありまして、マクスウェルは私が死んだものだと思っているようです。

 私と母は、4歳の時に人に襲われました。

 瀕死のところをたまたまその現場に通りがかったキースに助けられたのです。

 キースは優秀な外科医だったので、私を抱きあげて自分の家に連れ帰り看病してくれました。

 大変な重傷で何度も手術を繰り返し、精神的にも落ち着いた時には、私は死んだことになっており、

 父は再婚をしてしまった後でした。

 それで、キースと慎吾は私を育ててくれる決意をしてくれました。

 私の身体にはまだ手術が必要でしたし、その他にも理由があったようです。」

「キース・バートンは有名な方ですよね。亡くなった噂は半年前に聞きましたが・・。」

「本当は、3年前に亡くなっております。私はこの3年2人の死を隠し通しておりましたから。

 キースも慎吾も最後まで一緒でした。

 だから、私は2人をずっと一緒にさせていたかった。

 キースを研究目的で解剖するなんて私には耐えられなかった。」




私は、俯いた。まずい・・何か泣きそうになった。

考えてみると、2人が死んだと直接人にいうことってあまりなかった。




その時、暖かいものが私を包んだ。

「よくわからないけど、お前がんばったんだな。3年前なんていうと12歳だったのだろ?

 俺なんて12歳の時、龍哉を振り回してばかりだったぜ。よくがんばったな。」

和道はそう言って私を抱きしめた。



そう、この3年は必死だった。泣いている暇もなかったのだ。


「まだ、貴方は15歳なのですよ。」私の頭を西條の大きな手が撫でた。

「悲しいときは泣いていいのですよ。もう無理することはない。

 そんなに唇をかみしめないで、泣きなさい」

気がつくと、唇が痛かった。




「ごめん・・・・な・・・さ・・・・・」

声にならなかった。涙があふれた。




涙はとめようと思えば思うほどながれ落ちてきた。




あたたかい・・・

この3年願っても手に入れられなかったものに

私は包まれていた。

 
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