君と共に紡ぐ調べ

       第9章 喜ビノ産声 −5−

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「うそだぁーーー」

次期龍王が誕生した3日後、ようやく寝台で身を起こすことが

できるようになった慧の声が聖離宮に響いた。




この3日、慧はとても忙しかった。

龍王が産まれた後は、なぜかすぐに王城の寝室に連れて行かれ

クッションの高く積まれた寝台で侍女にメイクをされ

生まれたばかりの次期龍王を抱いて当主達・城の重臣達を迎えた。


実は、皆の後ろにたくさんの絵師がいたが、

頭がぼーっとしていた慧は全然気がつかなかった。


その間に力を使った銀の龍達と子供達は蒼の術で眠り、

夜には体力を回復していたようだ。


一方何が何だかわからない慧だったが

長い時間が経つと、再びリューゼに抱きかかえられ

聖離宮に戻ると今度は、当主達の意見を聞きながら

次期龍王の略称を夜通し考え、短い休憩を挟んで

命名の儀が行われた。


次期龍王の名は、リューレ。

それは略称で龍王は成人までに自分の真名を

決めるのだ。


2日目に入り、リュークとファルから産後の処置を受けることになったのだが

この処置も大変なものだった。

それは特別な蒼の龍の術を使い、身体を元の状態に戻すのだが

節々が痛くなるし、吐き気はする上、施術が1日中だったので

夕方にはぐったりとして、そのまま寝台に運ばれて眠りについた。



そして、今慧はようやく目を覚ましたわけだが、自分の前にいる子供を見て仰天して

大声を出したのだ。





「どうしました?」リュークとファルが驚いた様子で

部屋に入って来て、慧の指の先を見て不思議そうな顔をする。


「ああ、リューレ様。早速こちらにいらっしゃったのですね。」

「うん。」その先には金髪に金の目の美しい子供がいた。

年は3歳くらいだろうか?



「リューク、ファル・・・なんで・・・この子?」

慧は動揺したように言うと当たり前のようにリュークが言った。

「この子って・・・ケイ?自分の産んだ子に他人行儀な・・・。」



「だ・・・だって、この子・・大きいよ。

 まだ産まれて3日なのに。

 ああ、赤ちゃんの夜鳴きに悩ませられたり、

 愛らしくハイハイするのを楽しみにしたり、

 初めて立つ時に抱きしめたりするのを楽しみにしていたのに・・・。

 そうだ、誕生日に餅も背負わせないといけなかった。」

ちなみにナバラーンにはそのような習慣はない。



「だって、次期龍王ですもの、そのくらいは当たり前じゃ・・・。」


・・・それで解決するのかよ。・・・

慧は頭の中で激しくファルに突っ込みをいれる。

あくまで、頭の中だけだが。


「俺にも子育てのロマンがあったんだ。」

珍しく自分のことを俺と呼ぶ慧にリュークとファルが苦笑する。





「おかあさま・・・ぼく大きいからきらい?」

金髪の子は心配そうに慧の傍に来て言った。

その目は悲しそうに涙が溜まっている。


慧はぶんぶん首を振って両手を広げて言った。

「そんなことないよ。リューレ。おいで。」

子供は嬉しそうに慧に抱きついて顔を寄せた。


慧もにこにこ微笑みながら金髪の頭を撫でる。

「やっぱり可愛いなあ。ほら、もっとこっちに顔見せて。」

慧はそう言いながらリューレの顔を見る。


まっすぐなリューゼの髪と違う少しパーマ掛かった金髪の髪に

金色の目、優しそうな口元・・・

「う・・・ん・・わが子ながら可愛い。」

慧は本当に嬉しそうにぎゅっとリューレを抱きしめて頬にキスをした。



リュークとファルはそのほのぼのとした様子を見て微笑む。

日に照らされて美しく輝く金髪と慧の真っ黒で艶やかな髪が

美しい金のオーラのような力に覆われて光景はまさに聖画のようであった。




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