君と共に紡ぐ調べ

       エピローグ

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「重い・・・。」慧が不服そうにそう漏らした。

「龍妃様、もう少しで終わりますので・・・。」

女官達が慧の髪を弄りながらそう言った。


今日は、新しい龍王と次期当主をお披露目する日である。

慧は朝から風呂に入れられ磨きたてられ、そして今は

髪にたくさんの装飾をつけられている。


「ほら、鏡をご覧下さいまし。とてもお綺麗ですよ。」

慧は鏡の中の自分を見て小さな溜息をついて言った。


「綺麗と言うのは男に対する褒め言葉じゃないよ。」

「龍妃様あきらめも肝心ですよ。

 それでは、少しお休みください。」

女官頭のメリッサはそう言うと、他の者を連れて

部屋を出て行った。



慧は改めて鏡に写った自分を見た。

メイクをされて、冠をつけられた自分は違う人のように見える。




「しかたないけれど、小さいな。」慧は鏡に写った自分の姿を見て呟いた。

もう、何年も前になるけれど、自分が生まれて育った日本にいた頃

20歳の慧は痩せ型とは言えども、もっとしっかりした体つきだった。

しかし、今鏡に写った自分は小柄で華奢だ。


これから、リューゼと共にナバラーンで長い時を生きていく慧の成長は止まり、

老いが外見に現れる事はないらしい。

「鍛えようと思っても、筋肉がつかないからな・・。」

慧が鏡の前でブツブツ言っていると後ろから誰かにぎゅっと抱きしめられた。



「リューゼ!!」

慧は嬉しそうに自分の最愛の人を見あげた。

そこには、威厳のある龍王であるリューゼの姿があった。

白の丈が長いローブには手の込んだ金色の刺繍が施されている。

「慧、綺麗だ。」

リューゼは嬉しそうにそう言うと慧の頬を撫でた。

「何だか、恥ずかしいよ。」慧は照れたように微笑んだ。



「さあ、行こう。もっとも、妃のそのような美しい姿はあまり皆には見せたくないが・・・。」

リューゼはそう言って恭しく手を差し出した。

「うん。」

慧はそう言ってその手に自分の手を重ねた。



「リューゼ・・・歌・・・歌が聞こえる。」

慧が嬉しそうに微笑んだ。

王城の中は厳格な雰囲気に包まれているが

外から確かに歌が聞こえた。



「ナバラーン・・・ナバラーン。」

その歌は、儀式の最中も聞こえていた。

儀式を終えると、リューゼは片手で

小さなリューレを抱きあげた。



初めに、当主達が小さな次期当主を抱いて

慧達が待機している一階下のバルコニーに出ると民衆が湧き、

大きな拍手をした。



その後、リューゼはリューレと慧とバルコニーに

進み出た。

「こんなに?」リューレは驚いたように目を見開いて言った。

民衆の端はもはや見えない。



しかし、どの人も嬉しそうに手を振ったり歌を歌ったりしている。

「ああ。リューレ。これが私と慧の愛するナバラーンの民だ。

 そして、いつかお前が守る民だ。」

リューゼがそう言うと、いつもはリューゼに対抗しようとするリューレもコクリと頷いた。

民衆はわあーと完成をあげて、ナバラーンの歌を歌いだす。




   幸せの地。(ナバラーン)

   ナバラーンに祝福を。(愛を)

   愛する地。(ナバラーン)

   ナバラーンに祝福を。(愛を)

   ナバラーンに幸せを(祝福を)

   ナバラーンに愛を。(幸せを)

   永遠に (ナバラーン)

   ナバラーン(祝福を 愛を)

   ナバラーン(永久に)



   いつまでも響け。(愛する地ナバラーンの歌)

   幸せの地。(ナバラーン)

   ナバラーンに祝福を。(愛を)

   愛する地。(ナバラーン)

   ナバラーンに祝福を。(愛を)

   ナバラーンに幸せを(祝福を)

   ナバラーンに愛を。(幸せを)

   永遠に (ナバラーン)

   ナバラーン(祝福を 愛を)

   ナバラーン(永久に)

   ナバラーン。ナバラーン。

リューゼと慧も一緒に歌い始める。



以前は、この歌を眠っていたリューゼに捧げた。

しかし、今は共に歌っている。

これから長い年月の中でいろいろなことがあるだろう。



今は小さな子供たちだが、成人を迎えるとすぐに

永久の別れがある。


龍の当主達と銀の龍は生涯を通じて

リューゼと自分を支えてくれるだろう。



そして、何よりも愛しいリューゼがいつも隣にこうしていてくれる。



・・・愛してるよ・・・



そう言いたかったけれど、皆の前でそう言うことは恥ずかしかったから、

慧は、歌いながら全ての想いを込めてリューゼを見あげて手をぎゅっと握った。



   いつまでも響け。(愛する地ナバラーンの歌)

   幸せの地。(ナバラーン)

   ナバラーンに祝福を。(愛を)

   愛する地。(ナバラーン)

   ナバラーンに祝福を。(愛を)

   ナバラーンに幸せを(祝福を)

   ナバラーンに愛を。(幸せを)

   永遠に (ナバラーン)

   ナバラーン(祝福を 愛を)

   ナバラーン(永久に)

   ナバラーン。ナバラーン。




FIN



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