君と共に紡ぐ調べ

       第9章 喜ビノ産声 −3−

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「ケイ、せめてスープくらいは食べなさい。」

ファルは、そう言ってスープをすくったスプーンを

慧の口元に持ってくる。

慧はおとなしく口を開いたが、少しして

「もう、無理。これ以上だと吐くよ。」


そう言いながら、ファルから薬湯を受け取り、まずそうに飲んだ。

慧のおなかは本当に大きくなり、移動するときは必ず傍に

銀の龍が付き添うようになった。


主治医のリュークは、慧がいつでも出産できるよう

準備を整えている。


驚いたことに、出産方法は水中出産になるらしい。

リューゼと慧に出産時の呼吸法や注意事項をリュークに

教えてもらっている。


最近は、おなかが張って食欲も落ちているので

食事の時はファルがそばについてスープや口当たりの良い

果物を勧めてくれるのだ。




「おかあさま。」

そんな声と一緒に小さな足音がパタパタ部屋に入ってきた。


子供達が目を覚まし以前と同じように慧の部屋に入って来て

小さなもみじのような手で慧のおなかを撫でた。

「ふふふっ。くすぐったいよ。」

慧はそう言いながら子供達を抱き寄せたりキスをしたりすると

子供達は嬉しそうに慧に擦り寄って、きゃっきゃっと笑った。


子供達は暇さえあると慧のそばに来て過ごす。

昼寝の時は、慧とリューゼだけなら大きすぎるキングサイズの寝台も

せまくなったような気がする。

子供達は、ニコライに「龍妃様がお疲れになりますから。」と言われて

しぶしぶ部屋に戻って行った。




夕食のトレーを持ってきたファルは寝台に前かがみで

うずくまっている慧に慌てて近寄った。

「ケイ、どうしたのですか?」

「何だか、おなか痛い・・・。」

慧はそう言いながらリュークに教えてもらったように

息を殺さないように呼吸を整えていた。


その後、少しおなかの痛みがおさまった慧が向ったのは、

聖離宮の奥の部屋だった。

中の真ん中には大きな寝台があり

その寝台を囲むように少し小さめの寝台放射状に並んでいた。




遠くでガーンガーンと鐘が鳴る音が聞こえた。

この鐘は、龍王と龍妃が共に出産の為の宮に入った事を知らせる鐘で、

それを聞いたナバラーンの民は、朝と夕に龍王と龍妃の為に

祈りを捧げる。


リューゼが大股で部屋に入って来て慧を抱きあげて真ん中の寝台に寝かせると

再び、慧のおなかが痛くなった。

「う・・・っ。」

リューゼは慧を後ろから抱きしめて金の龍の力を注ぐ。

2人は金の龍の力に包まれて金色に淡く光った。


その時、扉が開いて銀の龍達が子供を抱えて入って来た。

子供はその腕の中でぐっすりと眠っている。

銀の龍達は寝台に子供達を寝かせる。



すると、子供達の体からそれぞれの龍の光が溢れ

慧のおなかに注いだ。


それから、銀の龍達が子供達の隣の寝台に横になり目を閉じた。

するとそれぞれの龍の光が上で交わって銀色の光になって

慧とリューゼを包みこんだ。


すると慧の体の中からすーっと痛みがやわらぐ。

リューゼは慧を優しく寝かせてそばにあった布で汗を拭いてくれた。

「ケイ・・・これを・・。」


いつの間にか枕元に来たリュークが薬湯を差し出したので

慧は両手で受け取ってそれを飲み干した。

「ケイ様、段々と眠くなるはずです。

 無理に起きようとなさらないでください。」

リュークの声が遠くに聞こえる。



「慧、ゆっくりとおやすみ。目が覚めるまで体力を温存するのだ。」

そう言いながらリューゼが優しく顔中にキスをしてくれる。

「リューゼ・・・愛してる・・・。」

慧はそう言いながら幸せな気持ちで目を閉じた。




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