君と共に紡ぐ調べ

       第9章 喜ビノ産声 −1−

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「ケイ様。」

久しぶりに王城に行った慧を呼び止めたのは

かつて王城で慧の身の周りの世話をしてくれたメリッサだ。


「ああ。メリッサ。久しぶりだね?みんな元気?」

慧はにっこりと微笑みながら言った。


「ええ。おかげさまで。ケイ様も調子は如何ですか?」

「うん。順調だってリュークに言われているよ。

 今日は、リューゼと昼食を一緒に取りたくてこちらに来たんだ。」


普段、慧が王城にくることはめったにない。

慧は聖離宮で銀の龍たちと静かに暮らしているからだ。


しかし、今日はリューゼが昼から空の散歩に連れて行ってくれるので

こうして王城に来て昼食を共にすることにしたのだった。


「まあ。いつまでも仲睦まじくて嬉しゅうございますわ。」

メリッサはそう言って慧をリューゼの執務室まで案内してくれた。




リューゼは、目の前で昼食を食べている慧を見て眉を顰めた。

「慧、あんまり食べていないようだけど大丈夫か?

 悪阻がひどいのか?」


慧はゆっくりと首を振りながら言った。

「ううん。頭ではわかっていたんだけど、目の当たりにして少し戸惑っているんだ。」

リューゼは、慧を抱きあげてそのまま長椅子に座って

「どうした?」と言いながら髪を撫でた。



「ほら、私はずっと聖離宮で生活をしていて、リューゼも周りも何も変わらなくて

 そして、おなかの中とは言え、この子を育てているでしょう?

 だから、時の流れについてあまり考えていなかったんだ。」


「時の流れ?」

「うん。さっきここに来る前にメリッサに会った。

 考えてみると、リューゼと結婚してもう15年が経つんだよね。」


「慧それが、王都の龍と人の町を隔てた原因なのだよ。

 龍は長生きだ。そして、人は龍に比べて短命だ。

 龍と契って、その身に龍の気を纏った人間だって

 精々生きて300年だ。そして、龍は500年は生きる。

 仮に人に恋をして受け入れてもらえなければ

 人は100年も生きれない。

 そして、龍は表面に老いが出にくいから

 人型では、最後まで30〜40代だ。」


「そして、その龍の中でも長生きなのは私達なんだよね。」

「ああ。私達は千年の時を生きる。

 だから、これから多くの別れを経験しなければならない。

 人と友人になると老いていく友人を見なければならない。

 龍にはそれが耐えれなかった。

 そして、人はいつまでも若い姿の龍を羨ましく思うあまりに

 憎むようになったんだ。」


「そうなの?」

「ああ。そこで、龍王は王都を分けることを考えた。」

「そうなんだ。あれにも意味があったんだね。」

慧がポツリと言った。


分かれていた王都を統合したのは慧だからだ。

「ああ。」


「リューゼ。確かに寂しい。

 今日もメリッサに置いていかれたような気がしたんだ。

 でも、俺はメリッサに会えて良かったと心から思う。

 死んでしまう者も悲しいけれど、置いて行かれるものも

 悲しい。それを理解しあえれば、何とかならないかな。」

「そうだな。慧は私の自慢の妃だな。」

リューゼは、そう言いながら慧を愛しそうに抱きしめた。



「俺はね、この子が龍王である姿をリアルでみることはできない。

 だから、私達の意思をこの子が引き継げることができるように

 少しでもたくさんのことをこの子に体験させたいんだ。」

慧はそう言いながら愛しそうにおなかを撫でた。


「そうだな。その為には早くこの子に出てきてもらわなければ

 ならないな。」

リューゼも優しく慧の腹を撫でた。

「早く、会いたいな。早く出ておいで。」


慧は微笑みながらおなかに向かって話しかけた。




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