君と共に紡ぐ調べ

       第8章 届ケ小サナ歌声 −10−

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「これは・・・。」

リュークとファルは、子供達を部屋に運んで眠っている子供達を診た。


子供部屋の隣の部屋で慧は銀の龍達に肩を抱かれて不安な顔で待っていた。

リューゼは視察があり、王城にはいない。


部屋から出てきたリュークを見て慧は軽く腰を浮かせて言った。

「リューク、子供達は病気なの?」


リュークは、微笑んでゆっくりと首を振って言った。

「おめでとうございます。龍妃様。次期当主達は

 次期龍王と絆を結び、第一の眠りにつきました。

 私の予想より早かったのですが、何も問題はありません。」


「第一の眠り?」

「ええ。龍王と当主達は生涯2回眠りにつくと言われております。

 龍王は、成人してから次期龍王として目覚める時まで、

 そして、花嫁を探す100年の眠りです。

 そして、当主は龍王が産まれるまで、

 そして次期龍王の側近として龍王と共に目覚める時までです。」


「ちょっと待って。この子、こんなに大きいのにまだ産まれないの?」

慧はバルーンのようにぽんっと膨らんだおなかを指して言った。

「ええ。龍王は龍妃様のおなかの中に最低まだ数年はいますよ。

 特に次期龍王は力を先日消耗したのでそれを蓄えるとすると

 産まれるのはまだまだ先になりますね。」


「えーーーっ。」

慧の観念では、妊娠して子供が生まれるまではおなかが大きくなるとすぐだと思っていた。

「特に龍王様は、全部で10回おなかの中で変化なさりますから

 まだまだだと思われます。」


「はっきりとはわからないんだ。」

「ええ。残念ながら・・・。ほら、私どもは事件がありましたので

 資料があまりないのです。」

今の龍王と当主達は、前龍妃が事件を起こした為にまっとうな生まれ方をしていないのだ。


「それに、それ以前も人工の方法に頼った産み方をなさった龍妃様が多くて・・。」

「何?その人工のやり方って?」

「えっ?龍王様に聞いておりませんか?」

驚いたようにリュークが言った。


「ううん。聞いてないよ。」慧がきょとんとした顔をして言った。

「あーーーっ。リューゼはわざと言い忘れたんですね。」

リュークがしたり顔で言った。

「龍王様ならありえます。」ファルも大きく頷きながら言った。


「どういうこと?」

「出産するには、ある時点で人工的な方法に切り替える機会が何度かあったのです。

 しかし、龍妃様はもう最後の機会も逃しているので、数代ぶりの

 自然出産になるのです。」


「数代ぶり?」

「ええ。数代ぶりです。だから資料がほとんどないのです。」



「違う。リューク。最後の機会は失敗したのだ。」

扉を開けてリューゼが入って来て言った。

「失敗?それはなぜでしょう?」

リュークがリューゼを振り返って言った。


どうやらリューゼは視察先から急いで戻ってきたらしい。

「さすがの私でも最後の機会の数日前、

 慧の腹の状態を探っていたのです。

 リュークが資料が乏しいと言っていたのも気になっていましたし・・。」

「なら?」


「リューク、考えたらわかるでしょうが?

 次期龍王は既に自我をしっかり持っている。」

「ああ。」

リュークとファルがその言葉に納得したように頷いた。


「何?全然わからないけれど?」

慧が不思議そうにリュークに聞いた。

「その最後の機会と言うのは、龍王が力を使って卵を取り出すという

 多少荒っぽい方法なのです。そして、その卵は卵宮と呼ばれる

 それ専用の部屋で大きくなり、頃あいをみて龍王の力で

 龍妃様のおなかに戻すのです。しかし、それには龍王が卵の意思を

 無視しなくてはいけません。」


その次をリューゼが続けた。

「しかし、我々の子供は自我がきちんと持ち、慧の胎内の外に出るのは拒否した。

 だから、私は自然に任せようとしたのだ。」


「うん。俺もそれでいいよ。

 確かに産むまで大変かもしれないけれど、

 リューゼや皆の愛情でこの子を育てて行きたいんだ。」

慧はそう言いながら柔らかに微笑んだ。


「慧、私は仕事を残してきたから王城に戻る。」

リューゼはそう言いながら、慧にキスをして静かに部屋を出た。



廊下を歩きながらリューゼは「丸くおさまって良かった。」と呟いた。

慧のおなかの中の子は拒否しただけではなかった。

「私も出るのが厭だし、お父様も毎日お母様を可愛がりたいでしょう?」

そう取引を持ち出して来たのだった。

わが子ながら恐ろしいと思うが同時にそれが我が子だと思うと嬉しく思う。


「ナバラーンは安泰だな。」

リューゼはそう呟くと、王城の執務室に入っていった。





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