君と共に紡ぐ調べ

       第8章 届ケ小サナ歌声 −6−

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「龍王様・・・。」

夕方、龍王の執務室にニコライとイアン、ガイとアハドが走ってきた。

リューゼは、不思議そうな顔をして皆を見回した。


「どうした?子供達の気配も活発ながらいつもどおりだが・・・。」

「その子供達が行方不明なのです。」ニコライが心配そうに言った。

「探せるところは全部探したぜ。」ガイが不思議そうに言う。

「昼寝をさせる前は皆、元気だったのだが・・・。」

アハドは考え込んで言った。

「起こしに行った時はもういなかったのです。」イアンも言う。


「わかった。とにかく子供達の気配を捜してみよう。」

リューゼはそう言いながら目を閉じた。

リューゼは、基本的にナバラーン中の人の気配を察して

見つけ出すことができる。



しかし、その力を出すと、余計な会話や人々の気配、つまらない喧嘩までもが

耳元で聞こえてくるので普段は力を封じている。


だから、当主達も銀の龍も探し出せるのなら自力で探そうと聖離宮の隅々まで探し回ったのだ。


力を解放し始めたリューゼの周りを金色の光が包む。


本当は、この力はナバラーンに何か異変があった時に使う力だ。

迷子探しのために使うのにはいささか情けなく、仰々しい感じがするのだが

そろそろ夕闇がせまりそうな時間であるので、大人達も心配しているのだ。


リューゼは、「産宮。結界の庭。」と告げるとそのまま姿を消した。

一息先に子供達のそばに行くようだ。


「人型で生活しているあの子達にとって龍になるのは体に負担が大きいのに・・・。」

イアンが心配そうに言う。


一回人型で生活している龍の子供は無意識に

龍の姿になるには負担はあまりかからないのだが

意識的に龍の姿になるには小さな人型の体に負担が掛かる。


だから、人型が定着したとき、リュークとファルは子供達に龍に意識的になるのは

やめるように教えて、勝手に龍にならない約束をしたのだ。


「とにかく、行こうぜ。」ガイはそう言って産宮の方へ駆け出す。

イアンは、近くにいた従僕に、まだ小龍を探している他の当主達や銀の龍に伝言を伝え

皆とガイの後を追った。



とうが産宮の庭に着くと、リューゼが眠っている子供達を抱え木にもたれていた。

少し疲れたような顔をしている。

「どうかしましたか?」


ガイがリューゼに駆け寄りながら聞くと

「やはり、龍の姿になっていて、負担がかかりそうだから無理に戻した。

 さすがに八龍を一気に人型に戻すのは少し疲れた。」

と言った。


リューゼは、その前にナバラーン中を見渡す術を使っている。

その術を使うことも疲労を呼ぶのだ。

「この子達は、我らが。龍王様はおやすみになって下さい。」


イアンがそう言って子供を抱き寄せるとリューゼは頷いて立ち上がった。

その後ろを主治医であるリュークがついていく。


ファルは、厳しい顔をしてバルドルを抱いていた。

他の当主達や銀の龍達も厳しい顔をしている。


リューゼが術を使わなければ、人型の体を壊すことになり、

人型の体を壊すと、龍としても健やかに成長できないのだ。

リューゼは、途中でふと足を止めた。


「子供達にも何か理由があったようだ。

 そして、その理由は、我が妃と次期龍王のことを考えてのようだ。

 叱ることも大切だがその理由を聞いてからにした方が良い。」

ちょっと振り返ってそう言うと再びリューゼは踵を返した。



「まあ、目を覚まさなければどうにもならないだろ?」

ガイがそう言うと、皆は頷いて聖離宮に戻ることにした。


その夜、聖離宮の中ではリュークやファルをはじめ、

蒼龍たちが忙しそうに歩き回っていた。


途中で気づいて阻止したといえ、小龍達の人型に負担がかかり

揃いも揃って、熱を出したり吐いたりしたからだ。

当主達も銀の龍達も怒ることも忘れ、子供達を必死で看病した。




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