君と共に紡ぐ調べ

       第8章 届ケ小サナ歌声 −3−

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急に聖離宮の中を子供たちの泣き声が響いた。

龍の当主達と銀の龍は、あわててその泣き声のする方に向かった。

そこは慧の部屋の方向で、何かあったに違いないと

皆は速度を速めた。



「おかあしゃま・・・・。グスグス・・・。」

「おきて・・・・クシュ・・・・。」

部屋が近付くと子供達の声が聞こえてきた。



「ケイ?」

当主達がドアを開けると、子供達が泣きながら慧を囲んでいるのが見えた。

銀の龍達は子供達を抱きあげ、背中をポンポン叩いて

あやしはじめた。



リュークは慧の近くに寄り「ケイ?」と声をかけながら

肩に手をおいたが慧の反応はない。

こんなに子供達が泣き喚いても目を覚まさないのはおかしいと思った

リュークは、すぐに手から蒼い光を出して慧を診た。



「ケイ・・・どこか悪いのか?」

ガイが心配そうに言った。

他の当主も目を覚まさない慧を心配そうに見つめている。


リュークは首を振りながら言った。

「それが・・・特に異常はない。」

不審に思ったファルも蒼い光を出して慧を診る。


「確かに異常は無いですね。

 しかし、目を覚まさないのはおかしいですね。」

「慧の感情が乱れているわけでもないからリューゼも王城から

 戻って来ないようだな。」

イアンが冷静にそう言うと、リュークが言った。



「医師としては経過を診るとしか言えませんね。

 ロベルト、慧を寝台に寝かせてください。」

ロベルトは頷いて慧を抱きあげた。


「おいおい、前に抱きあげた時より軽くなってるぜ。」

そう言いながら、寝台に寝かせると、イツァークが慧の上に布団をかけた。

銀の龍達は子供を連れて部屋に戻り蒼龍の子、バルドルも

ニコライが手を差し伸べるとおとなしくその手を握った。



ファルは、自室に戻り医療道具を抱えて戻って来た。

「俺らは、リューゼに知らせて来る。」

当主達はそう言って部屋を出て行った。



少しして、知らせを聞いたリューゼが部屋に入ってきた。


「慧・・・。」

リューゼはそう言いながら、慧の頬をくすぐるように撫でた。

休日の朝など、そのように撫でると

慧はクスクス笑いながら目を覚ますからだ。


「慧やおなかの子が病気などと言うことはないのです。」

リュークは、今までの慧の経過を書いたものを取り出して

リューゼに説明を始め、結果的に今出来ることは、様子を見ることしか

ないと伝えた。



リューゼも目を閉じて、金の光を慧に当てて

様子を見た。

「これは・・・?」

リューゼは何かに気づいたように目を見開いて言った。



「リューゼ?」

「なるほど、それならば頷ける。」

1人納得しながら考え込んだ様子のリューゼに

ファルはいらいらして聞いた。


「何があったのです?慧は大丈夫なのですか?」

「いや・・・。慧がどのような状態かはわからない。

 しかし、推測だが、原因がわかった。」

リューゼは、顎に手をやって考えながら言った。


どうやら、頭の中を整理しているようだ。

「リューゼは、何を感じたのですか?」

リュークは冷静に聞いた。


「かすかながら、金の龍の結界を感じたのだ。」

「金の龍の結界!まさか、おなかの子が結界を?」

信じられない様子でリュークが言った。


「いや、このナバラーンで金の龍は私とその子しかいないだろう。

 それで、私はその結界を張っていないのなら子供だろう?」


「見事な消去法ですね。

 おなかの子が中で結界を張って慧のおなかを引っ込めたと?

 そして、慧を結界に閉じ込めたと言うのですか?

 ありえない話ですね。」

ファルが信じられないように言った。



「確かに信じ難い話だが、そう仮定すると辻褄があう。」

リュークも考え込みながら言った。

「なら、その結界を破れば良いのですね。」

ファルがそう言うとリューゼは顔を曇らせたまま首を振って言った。



「金の龍は確かに色々なものから力を借りたりする力がある。

 だから、おなかの子が張った結界の元は何なのか考えていたのだよ。

 考えられるのは、母である慧のエネルギー、それか自分の命。

 それを破ったらどうなる?」


3人はそこではっとしたように目を合わせた。

「つまり、ケイか子供が危険に晒されるわけですね。」

深い溜息とともにリュークが言った。



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