君と共に紡ぐ調べ

       第8章 届ケ小サナ歌声 −2−

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「あーーーーーっ。」

朝の聖離宮に慧の叫び声が響き渡った。

リューゼは、公務がつまっているので早起きして外出している。

なので、今朝は慧1人で眠っていたはずだ。



リュークや当主達、銀の龍達が

バタバタ走って扉を開けると慧が泣きそうな顔で

寝台に座っていた。



「ケイ?」リュークは真っ青な慧を心配そうに見て言った。

「リューク・・・大変!!

 おなかが・・・。」



そこで初めて、皆の視線が慧のおなかに移った。

昨日まではち切れるばかりに大きかったおなかは

膨らみすら無く、むしろおなかはへっこんでいる感じだった。



「とにかく、寝台にお戻りください。診察します。

 ファル以外も出て行ってください。」

リュークは冷静にそう言いながら、真っ青な慧を寝台に寝かせ

他の者は心配そうに慧を見てから部屋を出て行った。



リュークはいつものように手から蒼色の光を出して

慧の体に翳すと、体の隅々まで慎重に診はじめた。

慧も軽く目を閉じる。


リュークの蒼い光は少しあたたかくて気持ちが良いので

いつもはそのまま眠ることもある位だが、今日は

おなかの子が気になってしかたがない。



リュークはゆっくり手を下ろすと安心したように

ふーーっ。と息をついた。


「大丈夫、命の気配はあります。しかし・・・どうしたものか・・・。」

リュークも困惑気味に言った。



「慧、蜂蜜湯を持ってきましたよ。

 こんな時はこれを飲んで落ち着いたほうが得策というものですよ。」

ファルが湯気の出ているカップを持ってきて言った。


慧は温かいカップを持ってゆっくりと蜂蜜湯を飲んでいると

体がぽかぽかしてきた。




「慧。」

外出先で慧の感情の乱れを感じ戻ってきたリューゼが部屋に入ってきた。

急いで来たのか髪が少し乱れている。



「リューゼ。仕事は?」

「ああ。視察は終えてきた。リューク、慧に異変が、あったのか?」

リューゼは心配そうに言った。


「それが、おなかが急に目立たなくなってしまいまして・・・。

 確かに命は昨日の診察の時と同じように生きている気配はするのですが

 一晩で、こんなに急激な変化をすることという例はあまりないので

 考えていた所です。とにかく、いつもより詳しく検査をしようと思います。」

リュークがそう言うとリューゼも目を閉じて、慧の体に手を翳した。



普段は慧の体の事は、リュークやファルに任せているのだが

やはり心配になったらしい。

「確かに、リュークの言うとおりだな。」

リューゼもそう言いながら手を下ろした。



「ケイ、何か体の調子でいつもと違うことはありませんか?」

「うーーん?体の調子?いつもと変わらないよ。

 頭が痛いとかもないし・・・。」

慧はちょっと考えながらそう言った。



リュークとファルは数日掛けて、徹底的に慧の体を診たが

異常は特に無かった。


しかし、リュークやファル、リューゼでも命の気配を感じることは

出来るのだがどこに子供がいるのかを探し当てることはできなくなった。


初めは心配をして様子を見ていたが慧が元気そうなので

日々が経つごとに皆が安心していた。


慧は、相変わらず仕事をいれずに

当主達や銀の龍達と語らったり、子供達と室内で遊んだりして過ごしている。


体調も、リュークとファルが徹底的に管理してくれているので

すこぶる良いように思えた。


人は案外毎日の小さな変化に気がつかないものだ。


慧の場合、それは昼寝の時間で毎日少しずつ昼寝の時間が長くなっていった。

その時間は、毎日数分ずつ・・・


夜の睡眠時間はリュークとファルが管理しているが、

昼寝の時間までは管理していなかった。



慧自身もそういえば、昼寝長くなっているなあという感覚しかなかったのだ。




その日、子供達は慧に絵本を読んでもらうために部屋に行った。

「おかあ・・・しゃま・・・。」

昼寝をしている慧に翠龍のハルが声を掛けた。

最近、単語だけ話せるようになったのだ。



慧はソファに横になって眠っている。

「「「おきて〜〜〜!!」」」」

三つ子のアレス・クロノス・ヘルメスがそう言いながら勢いよく慧の膝に乗った。




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