君と共に紡ぐ調べ

       第8章 届ケ小サナ歌声 −1−

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それから、1か月もの間に他の龍の小龍も人型になった。

もう龍の為の施設にいる必要がないので、産宮から聖離宮に皆が戻ると

リューゼと慧の静かな暮らしは、一転してにぎやかなものになっていった。



人型になった子供達は、もうその龍ごとに隔離する必要もないので

銀の龍たちや当主たちが分担して面倒を見ている。


なので、以前のように慧の周りには常に銀の龍の姿があり

慧も心が安定してきた。


リューゼにとっては、銀の龍達に慧を独占されている状態は

おもしろくないようで、時々金の龍のパワースポットに慧を連れて行き、

激しく抱くこともある。



しかし、以前と違い、子供達を産んだことで、慧の金の卵の波動を受けることが

無くなった銀の龍たちは、あの訳だ。この訳だ。と言って

なるべくパワースポットに連れて行かないようにするのでリューゼも苦戦しているようだ。



ある日の夕食後、慧はガイとロベルトがひそひそ話しているのを不思議そうに見て言った。

「ガイ?何やってるの?」


びくっとしたガイが恐る恐る後ろを見て慧の隣にリューゼがいないのを

見てほっとしたような溜息をついた。


「ああ・・・。ケイ・・いや・・これは・・・。」

慧はすかさず、ガイとロベルトが隠そうとした紙を手にとって見た。


「リューゼVSファル 勝つのはどっち?」

紙の上にはそう書いており、

細かに利率が書いている。


「何これ?」

「その・・ケイ・・これは、大人のたしなみだな・・・むしろ紳士の遊びだ。」

あわてたようにロベルトが言う。

その下に当主達の名前とお金が書いている。


「まさか。賭け?」

「だって、笑顔で対立しているあの2人。なかなかの見物だと思わないか?」

ガイが慧の肩を抱きながら言う。


「そうそう、笑顔の2人の後ろから龍や虎が出てきても俺は驚かないな。

 絶対背中にそんなオーラ背負ってるぜ。」

ロベルトも微笑みながら言った。

「それで?賭け?」

「ああ。健全なる賭けだ。今のところ11勝8敗でリューゼがリードしているんだ。」

ガイが胸を張って言った。

ガイもどうやらリューゼに賭けているようだ。


「いやいや、ファルだって健闘してるぞ。」

ロベルトも不敵に笑いながら言う。

・・・何だか、この2人揃うと元の生活に戻ったと思うんだよなあ・・・


慧は、そのやりとりを聞きながらのほほんとそんなことを考えていた。

ガイとロベルトの向こう側では、リューゼとファルが満面の笑みを浮かべて

何かを話していた。





少し後、扉が開いて、ニコライとリュークと子供達が入ってきた。

子供達は慧の姿を見るとトテトテ走り寄って来て

慧のおなかに頬ずりをしたり撫でたりする。



本能的にそこに自分の要である時期龍王がいるのを知っているように

皆が代わる代わる触れる。


「ケイ、疲れるので椅子に座りなさい。」

リュークがそう言ったので慧は窓際のソファに座った。


そうすると、その近くの床に子供達が座り、蒼の子バルドルが

美しい絵本を慧に差し出す。

慧は、絵本を開くと優しい声で皆に絵本を読み聞かせた。


その話は、初代龍王と妃の話。

夢中になって読み聞かせていると、子供達はコクリコクリ

舟を漕ぎ始め、そのまま眠り始める。


その様子を見ていた銀の龍は優しく子供を抱きかかえ

自分達の寝室に向う。

人型になったとは言え、眠っているうちに龍の姿に戻ってしまう

子供もいるので、落ち着くまで一緒に眠るようだ。



慧は幸せを感じながらそっとおなかをさすった。

「何だか・・・俺も・・・。」

慧はそう言いながらあくびをした。


慧がスースー寝息をたてはじめると

リューゼはクスリと微笑みながら慧を抱きかかえ、自分達の寝室に向うのだった。




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