君と共に紡ぐ調べ

       第7章 名定マル刻 −9−

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数日後、慧は闇龍の部屋に行った。


残すところ名前を決めなくてはいけないのは闇龍だけに

なったからだ。

闇龍の部屋は真っ暗だ。


慧一人では危ないのでリューゼが後ろから抱きしめてくれている。

リューゼが術をかけてくれたので、目が慣れてくると暗視カメラのように

映像が見える。


・・・・何も見えない・・何もない空間で、

黒い闇色の龍が空を飛んでいた。

ナバラーンの人はその龍を忌むべき龍と言うが慧は純粋に綺麗だなと思った。



その龍の後を何匹もの聖獣が追いかける。

闇龍が武器を使うのは死霊に対してのみだ。

人や龍の最期を看取り、その魂を昇華させる。


この作業は、優しい慈しみの心を持たなければできない仕事だ。

慧とリューゼは黙ってその部屋を後にした。



「リューゼ、闇龍の名前はレイだよ。」

自室に戻った慧はリューゼを見上げながら言った。

「レイ・・・ナバラーンの言葉ではじまりという意味か。

 他にも何か意味があるのか?」


「うん。レイとは全てを無に帰すという意味で0(ゼロ)

 そして、皆に礼節を持って接してほしい礼から考えたんだ。」




こうして、小龍たちの呼び名が決まった。

しかし、この呼び名で呼べるようになるのは

小龍たちが人型になってからだ。

「早く、大きくならないかなあ。待ちきれないなあ。」

慧はそう呟いた。









それから何度も季節が変わり小龍が生まれてから3度目の春も過ぎた。

小龍もすっかり大きくなり成龍と変わらない大きさになってきた。


慧のおなかも目立つようになってきて、この春からはコンサート等の胎教効果のあるもの以外の

公務を入れないことをリューゼが決めた。


ある日、慧がお茶をしているとリューゼが部屋に入ってきた。

「どうしたの?リューゼ?」

「紅龍が人型になりそうだと聞いた。

 見に行くか?」

「アレスって呼べるようになるの?」

慧は嬉しそうに立ちあがった。


産宮の紅龍の部屋に行くと小龍が飛びあがり何度も地面に着地する。

龍は、地面に着地するのと同時に人型になるのだ。


「頑張れ。」アルが人型になって小龍の方に手を差し伸べていた。

「チビ、負けるな!!」ガイも人型になって応援する。


リューゼと慧が入っていくと、小龍は小さく火を吹き、

大きく飛びあがると勢いよく着地した。


それと同時に3歳くらいの紅い髪の子供がそこでヨタヨタ立った。

「あーーーーー・・・・・。」

子供はアルの方に手を伸ばしてフラフラ歩く。


アルは近づいて抱きしめることはしない。

子供がようやくアルの所にたどり着いた時点で

「よくやったぞ!!」と言いながら抱きあげた。



ガイもにこにこ微笑みながら、子供の頭を撫でた。

アルは子供を降ろすと、リューゼの方に向かせた。



リューゼは子供の頭に手を翳すと、

「紅龍の子に龍の祝福と紅の叡智を。」

と言った。

リューゼの手から金色と紅色が混ざったような光が出て

子供を包んだ。



子供はきょとんとした顔でリューゼの方を見た。

リューゼはそのまま慧の肩を抱いて言った。

「ほら、呼んであげなさい。」



慧は、小さな肩に手をやって膝をついて目線を合わせた。

紅龍独特の紅い目を見ながらにっこり微笑んで言った。

「アレス。そう呼べる日を楽しみにしていたよ。」

慧はそう言うとアレスをぎゅっと抱きしめた。



「あーーーー。」

まだうまく話すことのできないアレスは

小さな手で慧の顔をピタピタ触ってキャッキャッと

笑った。


「だめだ。アレス!そんなに甘えん坊じゃ、立派な紅龍になれないぞ!!」

慌ててそう言うガイの言葉にそこにいた皆が思わず笑った。




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