君と共に紡ぐ調べ

       第7章 名定マル刻 −8−

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それから、数週間後、慧は公務でリューゼとともに

コンサートに行った。



これは、ナバラーンで恵まれない子供達を救いたいと

ルネとルイが定期的にやっているコンサートだ。


ルイはセントミリュナンテの音楽学校を卒業してから

慧と会えないときはナバラーン中を旅して

このようなコンサートを開いていた。

数年前まで、紫龍はパトロンを探し芸術を高めるという生き方を良しと

していたが、ルイがコンサートをするようになり、

それで収益を得ることを知ると、パトロンを探すという

紫龍は少なくなった。


また、蒼龍や黄龍に趣味として芸術が取り入れられたので、

以前より楽器や絵画が売れるということも

紫龍の自立に繋がったようだ。


慧が龍妃となってからは、ルイの活動に当主であるルネも賛同して

協力している。そして、ルネとルイが子育てでいない今も

紫龍の中の有志が集まり、

大規模なコンサートをナバラーン中で開催している。



そのフィナーレを飾るのが王都でのコンサートだ。

リューゼと慧は、心ゆくまで紫龍や他の龍の歌や踊り

黄龍のコメディを楽しんだ。


そして、コンサートは残すところ、後1組になった。


いつもなら、ここでルネとルイが出てきて美しい二重唱を聞かせてくれる。

出てきた人を見て慧は小さな声で「あっ。」と声をあげた。

ルイの兄であるレオンだった。


レオンは慧の方を向いて微笑むと美しい歌を歌い始め、歌い終わると

ステージの真ん中に進んで話しはじめた。


「ご来場の皆様。

 このたびは、このコンサートにいらして戴いて本当にありがとうございました。

 コンサートは、これで終わりですが、皆様に1つ提案があります。

 今宵は、龍王様並びに龍妃様もいらしております。

 次期龍王様並びに次期当主様が無事成されますよう、

 そして、このナバラーンの今後の発展を願い

 ナバラーンの歌を歌いましょう。」


皆が少し高い客席に座ったリューゼと慧の方を向いて立った。

ステージには、今まで出演した者が勢ぞろいした。

楽器を持って出てきた者もいる。


リューゼと慧が静かに立ちあがると


皆が歌いはじめた。

その歌は、慧がリューゼと結婚する前にルイと共に作った曲だ。

それを皆が広め、今は国歌のようになっている。



   ナバラーンに祝福を。(愛を)

   ナバラーンに幸せを(祝福を)

   ナバラーンに愛を。(幸せを)

   永遠に (ナバラーン)

   ナバラーン(祝福を 愛を)

   ナバラーン(永久に)

   ナバラーン。ナバラーン。


その歌を歌い終えると皆が拍手をして龍王と龍妃を称えた。




慧は、王城に戻るとピアノを弾きはじめた。

夢中になって奏でるといつの間にか後ろにリューゼが立っていた。


「今宵は、素敵なコンサートだったな。」

リューゼは微笑みながら言った

「うん。いつ聞いてもあのナバラーンの歌は感動的だね。」

慧がそう言いながらリューゼを見あげた。


「不思議なものだな。」

「なにが?」

「私は、慧がピアノを弾くことすら知らなかった。

 でも、こうして素晴らしい曲をナバラーンで弾いている。」


確かに、地球でリューゼの分身の龍星と住んでいた時、

慧がピアノに手を触れることは無かった。


それは、ピアノを弾くと亡くなった伯母のことを思い出すからだった。

「本当に自分でも不思議だよ。

 もう、伯母が亡くなった時ピアノは弾かないと決めたんだ。

 でも、ナバラーンでこの楽器を見たとき、気がついたら

 メロディを奏でていたんだ。」



慧はブルグミュラーの「せきれい」を奏でた。

「この曲はね。俺が初めてピアノを習って弾いた曲なんだ。

 これを、テスリラの工房のピアノで弾いた時、

 音楽ってやっぱり良いなって思ったんだ。」


慧はそう言いながらピアノでパッフェルベルのカノンを弾いた。

「心地よい曲だな・・・。」

リューゼはそう呟いた。



次の日、慧は紫龍の小龍の名前を決めた。

名は、カノン。ナバラーンの言葉で伝える喜びという意味は

紫龍にぴったりだとルネとルイも喜んだ。



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