君と共に紡ぐ調べ

       第7章 名定マル刻 −7−

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それから、半年くらいがあっという間にたった。

ぺったんこだった慧のお腹も裸になると

少しだけでてきたのがわかるようになってきた。


それぞれの小龍も龍として生活をしている。

2週間に1回くらいはリューゼの作った結界の中で

全員が会うことができるので、慧も小龍たちも

その日を楽しみにしていた。



あれ以来、他の小龍の名前を考えているのだが、

あまりよい名前が浮かんでこない。

小龍たちの名前は皆が人型になれるようになってから

呼ぶことができるので、気長にここ1年くらいで考えると良いと

聞いたので、ゆっくりと考えることにした。



慧が考えている名前は呼び名であり、本名はその呼び名を元に

それぞれの龍の当主の一族の長老達が独自の文化で培った命名法で

考えるのだ。


実際、蒼龍、紅龍、黄龍、桜龍の長老達は本名を考えるのに

頭を悩ませているようだ。


リューゼは龍王としての仕事をこなしている。

小龍を育てるために龍化している当主の代理もしているので

なかなか忙しいようである。



慧も体調の良い時はリューゼと共に視察などにでかけることもある。

先日、慧はリューゼと共に桜龍の総本山、セントミリュナンテでの

大祈祷会に参加した。


セントミリュナンテには、過去の龍王やその妃についての資料や

本がたくさんあるので、目にとまった本を数冊借りてきた。

朝食が終わって、リューゼを送り出した慧は

他にやることもなかったので、読書をすることにした。


「今日も、天気が良くて気持ち良いな。」

慧はそうつぶやきながら、ページを捲った。

慧のように異世界からナバラーンに渡ってきた妃は過去数人いたようで

その侍女の日記はなかなか面白くて、慧は没頭した。



その妃のひとりが漏らした一言を見て、慧は手を止めた。

それは、次期当主や龍王の命名式の夜に侍女にもらした言葉だった。


「皆、とても素敵な名前だったけれど、

 私の故郷ではもっと素敵な名前がたくさんあるのよ。」



「故郷の言葉かあ。」

慧はそれを見てそう呟いた。

闇龍、翠龍、白龍、紫龍の小龍の姿を思い浮かべる。


「そう言えば、リューゼも自分の名前をもじって龍星ってつけていたんだよね。

 もし、向こうで子供が生まれていたらどんな名前にしていたかなあ?

 俺も一文字の名前だからあわせていたかなあ。

 それとも、父さんや母さんの名前から一文字貰うとか・・・。

 父さんは、修(おさむ)だし母さんは晴香(はるか)なんだよなあ。

 あれ?」



慧は本をパタンと閉じると紙に両親の名前を書いた。

「久しぶりに名前、書いたなあ。

 父さんと母さんと伯母さんのお墓、誰かお参りしてくれているかなあ。」



そう言いながら父親の名前の横に瑠美(るみ)と伯母の名も書いた。

異世界からナバラーンに来たとき、5歳の姿になったが、

その前、慧は地球で20歳まで生きてきた。


8歳で両親を亡くし、引き取って育ててくれた伯母も

17歳の時亡くした。


慧はナバラーンに来ても両親と伯母の命日には花を窓辺に活け、

黒い服を身につけるようにしていた。


「母さんも、俺の生まれるときこんなに嬉しかったのかな?」

慧はおなかを撫でながらそう言うと、3人の名前が書かれた紙を

もう一度眺めた。




慧の感情の動きを敏感に察したリューゼは

公務を急いでこなすと、慧のいる部屋に向かった。

日の光が燦々と照らすソファの上で慧はおなかに手をやりながら

目を閉じ眠っていた。



リューゼがそっとその傍に行く慧の前に落ちていた紙を拾いあげた。

そこには、『シュウ』白龍 『ハル』翠龍と書かれてあった。



「シュウ・・・ナバラーンの言葉で生きるという意味か。

 ハルは、救うという意味・・・良い名を考えたな。

 他にも想いがこもった名だな。」

リューゼはそう言うと、慧を軽々と抱きあげて

寝室に運び、寝台に寝かせると指の先で零れていた涙をふいた。





・・・シュウ・・・修めるという意味は、学問を修めるという以外に

行いを正すという意味もある。まさに白龍にぴったりの名だと思うんだ。




・・・ハル・・・私は日本の春が好きだった。全ての命が芽生える季節だから。

そして、君の名は母さんと伯母さんの頭文字を貰った。

私の住んでいた地球は瑠璃色だと言われていた。

その瑠璃色は海の色。どうしても君の名に海に関係する言葉をいれたかったんだ。

そして、君は風も扱う龍、色々な意味でナバラーンが晴れてくれますように

そんな願いを込めて・・・




・・・父さん、母さん、伯母さん・・・

・・・遠く離れているけれど、俺の愛する子を

   俺の愛するナバラーンを護ってください・・・・。




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